夕日よりも宝石よりも




日向家の屋根からの眺めは、飛び抜けて良いものでもなかったが、塀に隔たれた庭からは見えないものが見えるのも事実だ。
例えば、今、空を赤く染め上げている夕日が地平線に沈み行く様もその一つ。
風が東から西へと流れ、雲が落葉と共に地平線へと吸い込まれて行き、空の割合が茜より藍が押し勝った。
その境界線に一番星が顔を出す。
「夕日に似てる」
「は?」
不意の声に隣に腰掛けた男に視線をやった。
「髪の色」
屋根の縁から足を投げ出して、男は指先で自らの前髪を摘んで見せる。
男の灰色の髪が風に揺れ、青い瞳が楽しげに細めらた。
軋む様な痛みが頭の中でくすぶり、瞬きさえも煩わしく感じて、柔和な笑みから視線を外す。
「自分の髪の色は嫌い?」
「余り良い思い出はないな」
「へぇ、俺は好きだけどなぁ。夕日に彼岸花に紅葉、林檎に苺、椿も薔薇も赤いのが一番しっくり来るし、宝石ならルビー」
歌う様に軽やかに紡がれる言葉が脳内に流し込まる。
いけ好かない筈の男の声が、何故か心地好くて胸がざわめいた。
「赤って綺麗なものを象るのが上手いと思わない?」
「…赤いもの全てが美しいとは限らないだろう」
「そうかもね。けど、」
くいっ、と顎を掬われて、男の方へと顔を向けさせられた。

「ギロロは綺麗だし」
「な…っ」

するり、と撫でられた頬が熱い。
触れられた部分から広がる熱が、先程の柔和なものとは打って変わった悪戯な笑みが、胸のざわめきを加速させる。
髪を指先で絡め取られ、唇を寄せられた。
触れて、直ぐに離れる。
「俺、綺麗なもの、好きなんだよね」
「き…貴様、何を考えて…っ」
「ん?いや、だから、ギロロが綺麗だなぁって」
「ふざけ…」
「てないけど?」
「…っ」
これ以上この男に近付いてはいけない。
本能がそう告げるのに、それでも男の青い双眸から視線が外せずに身動きが取れないでいた。
まるで蛇に睨まれた蛙の様だ、なんて笑えもしない。





【君が一番綺麗だ】



(誰かこの男を黙らせてくれ!)



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