貴方のせいで寿命が縮みます




心臓の音を確かめたい、とおとこが服の上から左胸に手のひらを這わせて来た。
自分より幾分か低い体温と無遠慮な手付きに、自然と逃げ腰になるのは仕方のない事だと思う。
しかし、それをおとこは咎め、噛み付く様な口付けを寄越した。
抵抗も虚しく、巧みに侵入して来た舌先に翻弄されていると、いつの間にやら波立つシーツに背中を預ける形でおとこに覆い被さられる。
おとこのテリトリーに自ら入り込んで、増してやベッドに腰掛けた数分前の自分を心の中で呪った。
ベッドに縫い付けられた両手首では抵抗も儘ならない。
残された両足で鳩尾でも蹴り上げてやろうか、と些か物騒な事を考えるが、仮にも恋人と呼べる位置にいるおとこに対して、それは余りに酷い手打ちかも知れない、とも思う。
しかし、そろそろ酸素が足りない。
よもや窒息死させる気じゃないだろうな、と身を捩るが、一向に止まる気配のない甘い責め苦に、時折出来る隙間から吐息が溢れる
自分のものだと認めたくない甘いそれに、ふつふつ、と沸き上がる羞恥心が、縦横無尽に口腔を犯す舌を噛み切ってしまえ、と喚き散らす。
「…っ、んんっ、ぅ…っ」
鳴り響く警告音が脳を揺さぶる。
不味い、非常に不味い。
下手すると殺す。
と言うか、軽く死ね、とか思ってしまっている。
苦しい、この儘だと殺される。
(殺られる前に殺らなければ…っ)
意を決して右膝で相手の鳩尾を蹴り上げようとした瞬間、右手首を解放され、今正に鳩尾に食い込もうとしていた膝を押さえ込まれた。
それと同時に酸素が肺を擽る。
「あっぶねえなー」
「…っ、は…」
「アンタ、今、マジだったろ」
「は…っ…は、ぁ」
「………大丈夫っすか?」
「っ、大丈夫な訳、あるかあっ」
呼吸も整わぬ内から、おとこの余りの無神経さに我慢ならずに喚き散らした。
解放された唇から肩を上下させて酸素を貪る相手に、その原因を作った奴がぬけぬけと言う台詞ではない。
「っ、貴…様は俺を殺す気か!窒息死なんぞまるで洒落にならんだろうがっ」
「あー、んな怒鳴んなって。また酸素足りなくなりますよ」
「誰のせいに怒鳴ってると思ってるんだ!だ れ の!」
「はいはい、俺のせいですよ。すんませんでした」
胸倉を掴み掛かる勢いでまくし立てると、おとこは上半身を起こして形だけの降参をしてみせた。
「反省の色が全く窺えないのは、俺の気のせいか?」
「気のせい気のせい」
くつくつ、と喉を鳴らして笑うおとこは、やはり悪気など微塵も感じていない様子だ。
きつく睨み付けると、まるで子供を宥めるかの様な手付きで頭を撫でられる。
「唯、アンタを窒息死させる気はないけど、心臓に悪い事はしたくなるんだよなぁ」
「…は?」
「アンタの心音が早くなるのを聴いてるのは気分良いんだよ。だから…」
もっと聴かせてくれよ、とおとこは至極楽しげに笑って、服の裾から体温の低い手のひらを忍ばせた。





【これ以上追い詰めないで】



(心音が煩くて他に何も聴こえない)



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