約束を絡めて




(ゆびきりげんまん)
(「もし、」)
(うそついたら)
(「違えたら」)
(はりせんぼんのーます)
(「殺してやる」)
(ゆびきった!)

小指と小指を絡めて呪縛を紡ぐ。
子供の遊びと言うには可愛げの欠片もなく、それは偏屈な世界でしか呼吸が出来ない餓鬼の言い訳に過ぎない。

「嘘、付いたら」
「針千本か?」

明日、赤い悪魔は戦場を舞う。
今、この手に触れる事の出来る温かな体温が明日には此処にない。
確かに此処に存在して抱き締める事も容易で口付ける事だって出来るのに。

「嘘付かないで下さいヨ」
「…クルル」
「何、嘘付いた後の事気にしてんスか」
「だが、そう言うものだろう?」

曖昧な苦笑。
脆さの滲むそれ。
簡単に崩れてしまいそうで、やり場のないやるせなさに奥歯を噛み締める。
絡めた小指が二度と離れなければ良い。
朽ち果てるまで、ずっと。

(餓鬼臭ェったらねェな)

似合わない願いを口にするのは憚られた。
自嘲を吐き出す代わりに絡めた小指を断ち切り、全てを誤魔化す様に鮮明な赤を腕に閉じ込める。
少し強ばった肢体が自分の存在を拒んでるかの様で軽く心臓を締め付けた。
しかし、並行して溢れ出す愛しさがそれをも打ち消す。
難解な様で単純な思考。
このひとの言動に、このひとの行動に、このひとの存在自体に一喜一憂させられる。

「帰って来て下さい」

温かな体温を確かめる様に、まるで縋るかの様に抱き締める腕に力を込める。
醜態を晒してるのは重々承知で、それでも此処はきちんと望む返答が返されるまで離す気はなかった。

「必ず無事に」
「…それは、」
「約束、して下さいヨ」

戸惑いを孕んだ声。
判ってる。
戦場に“必ず”なんてありはしない事位。

(でも、アンタは絶対に約束を違えたりしないから)

卑怯な手口と知りながら、それに不様に縋り付く。
いや、卑怯だからこそか。
自分がどれだけ卑屈で歪んだ精神の持ち主かは理解していた。
だから、どんな非難を受けようと構わない。
自分は傷付いたりしない。
非難よりも何よりも畏怖を抱く事を回避する為の、これは一種の賭けだ。
根っからの戦士であるこの人にとって戦場で朽ちる事は、何よりも冥利に尽きる事なんだろう。
しかし、それでは困る。
(冗談じゃない、ふざけるな)

「約束しろヨ」
「だが…」
「だがとか要らねェし、俺が欲しいのは無事に帰って来るって約束」
「クルル、貴様、無茶苦茶だぞ」
「うっせェ」

ひとがどれだけ醜態晒してると思ってるんだ、このひとは。
これで拒否るなんて有り得ない。

「約束、無事に帰って来るって」

簡単だろ、と答えを促す。

「先輩」

在りったけの力を込めて抱き締めた。

「頼むから」

声が震えるのを堪える様に。









「判った」

小さな溜め息と共に望んだ答えが吐き出される。

「………、本当だな?」

腕の力を緩めて正面から相手を見据えた。

「ああ」
「嘘だとか抜かしたら流石に切れますヨ」
「何だ、随分と疑うんだな?」
「聴いたからな?おとこに二言は無しでスからね?」
「判ってる」
「戦場でくたばりでもしたら殺してやる」
「俺は二度も殺されるのか?」
「何、俺以外に殺されようとしてんスか、浮気行為スからね、それ」
「いや、貴様が言い出したんだろうが、それに浮気って何だ!」
「うっせェ、何が何だろうとアンタは俺のモンなんでスから外野に殺られないで下さいヨ」
「いつから貴様のものになったんだ、ふざけるなっ」
「あー、はいはい」
「何だその気の抜けた返事は!」
「もう、アンタうっさい」
「なっ、…ン…ぅ」

抱き締めて、口付けて、確かに此処にある体温を確かめる。

「違えたら」

手を握って、指を絡めて、確かに此処にある存在を刻む様に。

「殺してやる」





【小指】



(再び絡め合った小指に紡ぐ)
(それは呪縛にも似た心からの願い)


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