駄目になるなら貴方の愛で




どうか、名前を呼んで。
どうか、愛のひとつだけでも囁いて。
その低音で耳朶を優しく撫でて欲しい。
ないものねだりの餓鬼の様にたったひとつを盲目的に求める。
触れる事の出来る体温がふたりの距離を露呈して、その距離に感じたもどかしさが痛みを生んだ。
拒まれる事への慣れと罵声を聞き流す術を身に付けて、高い体温に触れる際に震える指先を誤魔化す。
(可笑しくなる程アンタが好きで。
俺はきっとこの世の誰より無様で。
けど、それでも良いなんて思う時点でもう引き返せないとこまで堕ちてしまったんだ、と)
顔に走る傷痕に覚えた嫉妬を押し殺して、その傷痕に指先を這わせる事で俺だけを見て、と懇願する。
拒まないで、愛して、どうかどうか。
軽口を叩く様にしか愛を囁けないのに、内で巡る欲望は止め処ない。
膨れ上がった欲望は徐々に正常な思考を蝕んで、呼吸すらも下手くそになって行く。
誰よりも何よりも大切に触れたいひとなのに、結局は無遠慮な指先で傷付けてばかりで。

「せんぱい、悪い、ごめんな」
「素直に謝るなんぞ、貴様らしくもない」

いつもみたいに不貞不貞しくしていろ、なんて低音が甘やかすから、指先はいつまでも稚拙な愛撫を繰り返した。





【根腐れする程に愛して】



(愛を注がれ過ぎて朽ちるなら本望じゃないか)



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