貴方の涙は僕には拭えない




どれだけの愛を囁けば、その双眸はこちらを見てくれるんだろう。
どれだけの想いを込めて掻き抱けば、その両腕は背中に回されるんだろう。
温もりが足らない、とクルルは思う。
自分より幾分か高い体温が足らない。
その体温をこの腕に抱けば、悪夢とは無縁の眠りを貪れる。
安堵を齎す赤いひとが、クルルは愛しくて仕方なかった。

「アンタがいつか俺を殺してくれたら良いのに。そしたら、俺はきっと死んでも胸糞悪い夢を見る事もない」

甘く甘く懇願すれば、そこには思い描いた通りの表情を浮かべた彼がいた。
(そう、アンタは困った様に笑うんだ)
彼を象る赤を撫でる。
輪郭に指先を這わせる。
彼は肩を小さく震わせ、唇を噛んだ。

「愛してる、せんぱい」





【愛が痛いと彼は泣いた】



(涙は形になりはしなかったけれど)



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