02




この指先が引き金を絞る事を躊躇わなくなったのは、いつからだろうか。
(身体に染み付いた血と硝煙の臭いを誤魔化す事は出来ない)

俺の世界は、とある「声」から始まる。
低く、そして何処か安心感を覚えるそれは、幼い俺にとっては世界そのものと言っても過言ではなかった。
今思えば、その頃の俺の世界は決して広くはなく、しかし、俺ひとりには広過ぎた。
誰かと共に過ごす事を知っていた俺には、閉ざされたひとりの空間は耐え難く、何を与えられても全てを拒んで泣いた。
既に亡かった両親を呼び、泣けばいつも優しく抱き締めてくれた兄を呼んだ。
長い間、来る日も来る日も泣き疲れて眠った。
夢の中にも応える声はなく、流し過ぎたのか涙も枯れてしまった。
悲しいのに涙は尽き、愛しい家族を呼ぶ声は掠れて酷く耳障りなものになった。
そして、やがて声すらも枯れてしまおうとした瞬間、それは降って来た。

『ギロロ』

名前を呼ばれたのは久し振りだった。
ひとりでこの空間に閉じ込められてから、初めて自分以外の声を耳にした。
枯れ掛けた声は意味をなさない嗚咽を絞り出した。
俺は涙を流さずに泣いた。
続いた言葉が、ひとりぼっちになった俺が何より欲するものだったから。

『私がずっと君の傍にいるよ』

その瞬間、俺の世界は始まった。



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