赤い花は未だ咲かない




古ぼけた写真の中で幼い自分と兄が笑っていた。随分と昔のものだ。
部屋を整理した際に発掘した一冊のアルバム。その数ある中のほんの一枚だった。
年齢差と言うものは、幼い頃に最も露呈する。写真に指先を這わせながら、そんな事を思う。
未だ顔に傷痕のない自分と、その自分を腕に抱える兄。
体格差は明白で、浮かべている表情も明らかに異なる。無邪気に笑う幼い自分とは違い、穏やかに微笑む兄は既に大人の顔をしていた。

軍人として歩み始めて早数年。
少なくとも、写真の中の自分よりは心身共に成長したつもりだ。しかし、写真の中の兄と比べるとどうだろうか。
穏やかな微笑みを指の腹で撫でる。そこには、少しの妬みとそれよりも遙かに勝る尊敬とが入り混じった感情を込めて。
必死に追い掛ける背中は未だ遠く、手を伸ばしても届く事はないだろう。
伸ばした手が虚しく空を切るのが怖くて、容易に行動に移せずにいる自分を思うと、写真の中の兄どころが自分にさえ劣っている気がした。

「手を伸ばす事なんて簡単だったのに」

自分の不甲斐なさを嘲笑いながら、静かにアルバムを閉じる。表紙を一撫でし、本棚へと仕舞い込んだ。





【僕の中で貴方は余りに大きくて】



(戦士として胸を張れる時が来たら、再びアルバムを開こう)



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