指先は引き金を絞る為の道具です




太陽の似合わないおとこだ。
不健康な肌の色が太陽の下だとより際立つ。
白衣の袖から覗く手が無遠慮に腕を掴んだかと思えば、その儘相手の腕の中に囲われた。
白衣に染み込んだ煙草の匂いが鼻を擽り、自分に染み込んだ血と硝煙の臭いと混ざり合う。

「何故、ここにいる」

耳障りに声が掠れた。
声を発する際に喉が痛みを訴え、銃を握る手に力が籠もる。
銃弾は既に尽きていた。
最後の一発は敵の額を貫いた。
自分の視界で捉えられる最後の敵だった。
未だ熱を孕んだ儘の銃身が、逃避を企てる思考を現実に繋ぎ止める。

「迎えに来た」
「迎え…?」
「終わったんだ。終わったんだよ」
「そう、か」
「ああ、アンタの勝ちだ」

戦場は数え切れない屍に埋め尽くされ、敵も味方もなく折り重なっていた。
敵兵も戦友も地に臥し、もう二度と動かない。
大地は死に埋もれ、その中に一握りの生が息づいていた。
自分と、自分を抱き締めるおとこ。
今、この地で息をしているのはふたりだけだ。
クルル、とおとこの名を呼ぶ。
身体に絡み付く腕の力が強められた。

「勝利はこんなにも苦いものだったろうか?」
「…せんぱい、」
「こんなにも、やるせないものだったろうか?」

手のひらから零れた銃が大地と口付け、空いた手のひらは縋る様におとこの白衣に皺を刻む。
頭上に広がる青空が眩しくて、視界が霞んだ。





【屍を積み上げて勝利を築く】



(僕が纏う死は、引き金を絞る度に色濃くなるのです)



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