社会秩序から外れた無法者




いつもと変わらぬ下らぬ口論。
何が発端だったかも定かでなくなる。

「アンタはまたそんな顔する」
「誰のせいだと思ってる」
「さぁ、存じませんヨ」
「(ああ、時折無性に殴り飛ばしてやりたくなる!)」

レンズ越しにこちらを見据えるふたつの瞳。
居心地の悪さを感じて逸らした視線。
それを許しはしない、とでも言う様に、不健康な肌色をした両手が頬を包む。

「っ、何を…」
「アンタが目ぇ逸らすからでしょうが」
「離せ、莫迦者!」
「はいはい、おっさんはうっせぇなぁ」
「なっ…、誰がおっさんだ!」
「アンタだアンタ、喚くなヨ、耳痛い」
「っ、(何て勝手な!)なら離せっ」

頬を包む両の手の手首を掴んだ。
御世辞にも逞しいとは言えないそれは、どうした事かビクともしない。

「っ?」
「あのなぁ、俺も一応男なんスけど?」
「そ、そんな事は…」
「判ってるって?なら、」
「…え(何でこんなに顔が近いんだ?)」
「舐めて掛かった、アンタが悪い」
「ク…ルル?(この距離は可笑しい、だって、触れてしま…)」













「…ってぇ、」
「貴様とは当分顔も合わせたくない!」

捨て台詞宜しく走り去る赤色を視線だけが追う。
怒りからか、将又違う理由からか、頬を赤らめていた赤色が無駄に可愛かった。

「…加減無しに噛みやがって(まぁ、舌で無かったのが幸いか)」

八重歯で噛まれた唇からは血が滲み、口内にはその味が広がる。
中々に強烈な出来事だ。
それは相手にも言える筈で、思わず笑みが溢れた。





【無いもの強請りのアウトロー】



(欲しがりな僕は君を決して逃がさない)




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