あの頃の僕とさよなら




瞼を開けた先に彼が、そして眩い太陽が存在した。太陽は彼の肩越しから僕を照らし、彼の表情は逆光で読めない。謂われのない不安に襲われ、それを払拭する為に彼の名を呼んだ。

「ギロロ君」

彼からの応えはない。流れる沈黙が永遠にも感じられて息が詰まった。堪え切れず縋る様に彼に手を伸ばす。が、直ぐ傍にいる彼に手が届かない。
(何故、どうして、)
表情が読めない。声が聴けない。触れる事が出来ない。軽い絶望感に眩暈がした。

「ギロロ君、ギロロ君、」

震える声で彼の名を繰り返し呼ぶ。迷子の子供が母親を呼ぶ様に。何度も何度も。
(応えて、応えて、お願いだから)
彼を捕らえようと必死で腕を伸ばす。届かない筈ない。届かない筈ないんだ。
(だって、僕はもうあの頃の僕じゃないっ)
強く強く思う。幼い頃から焦がれていた彼に触れたい、と。

「ギロロ君!」

肩越しの太陽が目を焼く。彼を象る赤が目を焼く。彼の名を必死に呼んだのはいつ以来だろう。手のひらに感じた温もりに世界が弾けた。世界が弾けた瞬間、彼が微笑んだ気がした。

(身体を揺さぶられる感覚にゆっくりと瞼を開けた。先ず視界に飛び込んだのは、彼を象る赤。僕の手のひらは彼の腕を掴んでいた。どうやら彼は魘されていた僕を案じて眠る僕を起こしてくれたらしい。けど、僕はそんな彼の話に耳を傾けるより先に温もりを腕の中へと引き寄せた。何度も彼の名前を呼んで、彼にも僕の名前を呼んで貰って、愛を囁く事も忘れない。状況を飲み込めず、それでも彼は余程怖い夢を見たのだろう、と僕の頭を撫でた。そんな彼が愛しくて顔中に口付けを落とす。擽ったそうにしながらも彼が腕の中で大人しくしているものだから、彼の承諾も得ずに唇にも口付けた。後で顔を真っ赤にした彼に怒鳴られたのは、唇だけじゃ飽きたらずに首筋や鎖骨に口付けて、増してやそこに赤い痕を残したからかも知れない)





【悪夢の先で僕は君に出会った】



(君に触れられる幸福を知ってしまった今、僕はもうあの頃には戻れない)



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