不変を愛した




空を模した瞳が優しげに細められる。
好きだよ、と彼の指先が頬を撫でた。
触れ合った部分が熱を孕む。
彼の体温は自分よりも幾分が低い。
頬に触れる指先が熱を生み、ふたりの温度差を埋めていく。
顔に走る傷痕を指の腹で撫で上げられた。
その感覚に背筋が微かにざわめく。
擽る様に触れて来る指先が耳の裏を掠めれば、更にざわめきが増した。
思わず逃げ腰になるのを、まるで予測していたかの様な動きで壁際まで追い込まれる。
じり、と詰め寄る青い瞳は、穏やかであるのに何処か獰猛さを隠し切れていない。
固より隠す気もないのかも知れないが、追い詰められた状況ではどちらでも差ほど変わりはなかった。
壁に突いた両腕に囲われて退路を絶たれる。
背中に感じる壁の冷たい感触に眩暈がした。

「ごめんね、逃がしてあげられない」
「っ、」

呼吸すら儘ならない程の痛みが胸部に走る。
まるで心臓を掴まれている様な錯覚に陥った。
ふたりの距離が縮まる度に心臓が悲鳴を上げて、この儘ではいけない、と頭の中で警告音が鳴り響く。

「君が、好きなんだ」

警告音の中、身動ぎ一つ出来ずに空の中に映し出された自分を見詰めた。
近過ぎる空に意識を呑まれたのと同時に唇に触れた柔らかな感触。
ちゅっ、と音を立てて離れたそれが彼の唇だと理解する頃には、再び唇を啄まれた。
歯列を割り、難なく侵入して来た舌先が上顎を撫でる。

「っ、っう」

肌が粟立つ感覚をどうにかやり過ごそうと瞼をきつく閉じる。
自由な儘の両腕が心許なくて、かと言って彼に縋り付く事も出来ない。
幼い頃、彼を弟の様に思っていた自分のなけなしのプライドがそれを許せずにいた。
懸命に後を付いて来る彼の手を引きながら、自分が彼を守らなくてはいけない、と子供ながらに思っていたのだ。
泣き虫で臆病で優しい彼を。
なのに、今、こうして唇を合わせる彼は、自分が守ってやらなければならない程弱くはない。
謂われもない焦燥感がもどかしくて、床に爪を立てる。
吐息と共に口付けから解放され、瞼をゆっくりと開けると濡れた唇を親指の腹で拭われた。
ぼやけた視界で空が悲しげに揺れる。

「泣かないで」

湿り気を帯びた声が過去と現在を切り離させてくれない。
守らなくてはいけない存在ではないのに、泣き虫な彼の頭を包む様に抱き締めた。
一瞬、彼は怯えた様に身体を竦ませたが、柔く頭を一撫でしてやると背中に腕が回される。
今だけ、と自分を諭しながら、繰り返される謝罪と愛の言葉を一つも逃す事なく噛み締めた。





【不安定な空模様】



(泣いてるのはお前の方だろう)



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