大人は狡い生き物だから




優しい部分も泣き虫な部分も相変わらずで、けど、彼はあの頃の彼ではない。

指先が輪郭を確かめる様に触れる。
空を模した瞳を細めて、彼は慈しむ様な視線を寄越した。
名前を呼ぶ声が酷く優しい。
「僕はね、ずっと触れてみたかったんだ。君に」
「可笑しな事を言うんだな」
幼い頃から傍にいた。
手を繋ぐなんて珍しくもなかったと言うのに。
「そうだね。けど、僕は自分の意志で君に触れたかったんだよ。手はいつも君から握ってくれてたでしょう?」
確かにそうだったかも知れない。
幼い頃からもうひとりの幼馴染みが問題を起こし、その後処理に付き合わされていた。
身体が丈夫とは言えなかった彼は、それでも懸命に後を付いて来て、その手を掴んで走った記憶は今でも鮮明に思い出される。
「この手はいつもふたりには届かなくて、けど、君が握ってくれてたんだ。ふたりと僕とを繋いでくれてた」
嬉しかったんだよ、と彼は微笑んだ。
その微笑みは幼い頃から変わらない様に思う。
「僕の手は酷く汚れてしまったけど、僕の望みは色褪せる事を知らなかった。君に触れられて嬉しい。誰かの体温をこんなにも愛しく思えて嬉しい。僕にも未だ感情が残っているんだって実感出来て、幸せなんだ」
ゆっくりと紡がれる優しい声色。
頬に触れる指先も酷く優しくて、胸を締め付けられる。
「大好きだよ。迷惑なら謝るけど、ごめんなさい、訂正は出来ない」
優しい部分も泣き虫な部分も相変わらずで、けど、彼はあの頃の彼ではない。
「愛してる。生きてるって事を君に触れる事で僕に判らせて?」





【幼さが僕の邪魔をする】



(だから、懐かしむ事はあっても、僕はあの頃に戻りたいとは言えないんだよ)



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