太陽の下で笑う貴方は遠く


(※パロ)



止まない雨が気持ちを落ち込ませていた。窓の外は土砂降りで、窓を叩く雨音は酷く耳障りだ。そして、唯でさえ地に落ちている気分を更に憂鬱にさせる奴が堂々と店の正面から乗り込んで来た。

「こんちは、元気っすか?」

普段はふわふわとしている黄色い髪が今は力なく水滴を滴らせている。何を考えているのか、おとこはこの土砂降りの中を傘も差さずにここまで来たらしい。店の床に水溜まりが出来て行く。
(誰が後始末すると思ってるんだ、この莫迦は)

「帰れ」
「うわ、開口一番がそれかよ。客には愛想良くするもんだぜ?」
「貴様が客だと?笑わせるな」
「客だぜ?今日はな。つーか、タオル貸してくんない?この儘だと風邪引いちまう」

おとこはわざとらしく身体を震わせた。
(風邪の心配をする位なら最初から傘を差して来い。と言うかここに来るな)
言ってやりたい事は多々在ったが、これ以上店を水浸しにされても困るので、店の奥にタオルを取りに行った。少し大きめのタオルと替えのシャツを掴み、ついでにドライヤーと櫛を持って戻る。ずぶ濡れの儘で店の中を彷徨こうとしていたおとこの顔面目掛けてタオルを投げた。

「っと、ありがとさん」

狙いは完璧だったが、寸での所でタオルはおとこの手のひらに捕まる。反射神経は悪くないらしい。ドライヤー、櫛、そして替えのシャツをカウンターに置き、釈然としない気持ちで掃除用具入れからモップを取り出した。おとこ水浸しにした床を掃除して行く。横目で窓を見ると、窓を叩く雨音がいっそう激しくなった。
(この雨だと傘を差していても濡れてしまうな)
床の掃除を終えてモップを片し、おとこの方へと歩み寄る。おとこはタオルを首に掛けてぼんやりとカウンター席に腰掛けていた。辛うじてシャツは着替えていたが、髪の先には水滴が光っている。

「貴様は髪もろくに拭けんのか」

呆れた面持ちで溜め息を吐き出し、おとこの首からタオルを奪い取った。少し粗雑な手付きで水滴を拭ってやる。下の替えも後で持って来なければ、と頭にインプットし、痛いだと乱暴だのと文句を垂れるおとこを無視しながら、ドライヤーのプラグをコンセントに差し込んだ。スイッチをオンにし、ドライヤーから吐き出される温風を髪に当てる。手櫛で湿った髪を梳く。

「アンタにこうされるんの久々だな」

何処か楽しげにおとこは笑った。普段の柔らかさを取り戻し始めた髪はふわふわと風に揺れる。心地好い指通りは確かに懐かしく感じた。

「貴様が」
「ん?」
「貴様がここに寄り付かんからだろう」
「何?もしかして寂しかったです?」

背を仰け反らせてこちらを窺って来る双眸が憎たらしい。莫迦者、と返せば、おとこは喉を鳴らして笑った。レンズ越しの視線から目を背け、ドライヤーのスイッチを切る。両手で頭を挟む様に掴んで前を向かせた。視線から逃れる訳ではなく、櫛で髪を整える為だ。そう心の中で呟いて櫛を手に取る。

「なぁ、」
「何だ」
「俺、引き籠もりなんで、大抵家にいるんです」
「自分で言うな」
「だからさ、会いに来てくれても滅多に擦れ違いなんて起きないと思うんすよ」
「…は?」

髪を梳く手が止まる。このおとこは何が言いたいんだろうか、なんて。そんな事は余りに明白だ。明白な筈なのに二の句が継げない。

「会いに来いよ。アンタから俺に会いに来い」
「クルル、」
「頼むから、ここから出て来いよ」

淡々とした声だった。顔が見えない事が不安に繋がる程、淡々とした声だった。

「アンタには太陽が似合う」

激しい雨音の向こうで光の筋が走る。轟く雷鳴は悲鳴にも似ていた。





【見えない足枷に繋がれて】



(扉はいつだって開かれた儘なのに)



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