お手々繋いで帰りましょう




その小さな存在は酷く脆い。
少なくとも私の目にはそう映っていたし、実際にそうなのだろう。
夕暮れを背に歩く細い路地。
繋いだ部分から伝わる熱は子供特有の高いもので、向けられる笑顔は余りに純粋だった。
舌足らずに名を呼ぶ声が、何処か私を責めている様に感じていた。
それが私の弱さであり、戒めでもある。
私の手は汚れを知らぬ小さな手を握るのに似付かわしくない。
多くの血に塗れ、数え切れない程の命を奪った。
引き金を絞る指先も、肉を裂くナイフを握る手のひらも、本来ならその無邪気さに触れてはならない。
(触れれば汚してしまう
駄目だ、
この子はまだ無邪気な儘で
いけない、
無邪気な儘でいて欲しいのにっ)
渦巻く感情が仄暗い闇として私の内側に蓄積される。
私はそれを罪だと知っていた。
それでも、私は差し出された小さな手のひらを拒めない。
温もりを握り返す時だけ、今まで犯して来た罪を許されている様な気がした。
汚れを清められる様な、錯覚。
罪を犯しながら罪を許される事など、有り得はしないと言うのに。
(我ながら笑えない、な)
知らず浮かべた自嘲の笑みを、やはり汚れを知らぬ双眸が捉えたのが判った。
無邪気な笑みを浮かべていた顔が悲しげに歪み、未だ覚束ない足取りが止まる。
繋いだ手と手が離れた。
しまった、と思った時にはもう遅い。

「にいちゃ…ん」

湿り気を帯びた声が耳朶を擽る。
視線を合わせようと正面に回り膝を折れば、不安げに揺れる瞳がそこにはあった。
子供は感情に敏感だ。
特に身近なものの変化には敏い。
それがどんなに些細な事だとしても。

「にいちゃ、」
「うん」
「おこってるの?」
「いや、怒ってないよ」
「でも、」
「大丈夫、怒ってないよ」

出来る限り優しく頭を撫でる。
何度も何度も、優しく。
こんなにも罪深い私に一時でも安らぎをくれるこの子を私が怒る筈がない。
怒りを感じるならば、少しでもこの子に不安を感じさせた己に対してだ。

「ほんとにおこって、ない?」
「ああ、勿論」
「…よかった」

ほ、と張り詰めていた空気が解れ、無邪気な笑顔が戻る。
安堵の溜め息を付くのは私も同じだ。
最後に頭を一撫でして立ち上がる。
今度は私から手を差し出した。

「さぁ、帰ろうか」
「うん、にいちゃん!」





【愛しさと罪深さと繋いだ手と手】



(この汚れた手で構わないのなら、幾らでも差し出そう)



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