過ぎ去りし日の眩さよ
空を見ていた。
もう指先を持ち上げる気力すらも残っていない。
辛うじて重い瞼を持ち上げて、雲一つない空で視界を埋めた。
死臭の満ちる戦場で無防備にも肢体を投げ出している自分を見たら、あのおとこはどんな反応をするんだろうか。
笑うのか、叱るのか、呆れるのか。
ぼやけた思考では上手く思い描けない。
(俺はどうして欲しいんだろうか)
いつだってその背中を追い掛けて来た。
自分が進めば、その分、時にはそれ以上に背中は遠退いた。
追い掛けても追い掛けても、追い付けない存在。
憧れと妬みとが入り混じった感情がじわじわ、と俺の首を絞め上げて行った。
息苦しさから逃れる為に背けた視線では、もう真っ直ぐに背中を見詰める事は出来ない。
いつの日か追い抜く事を目標にしていた背中を追うのは、もう苦痛でしかないんだ。
だから、
「戦士としてあるまじき行為だな」
心臓が跳ねる。
ひゅっ、と不様に喉が鳴った。
青に埋め尽くされた視界が侵される。
日の光を遮った影が真っ直ぐにこちらを見据えた。
何故、と声を絞り出す。
酷く掠れて耳障りな音におとこは小さく笑って返す。
もう全部終わったよ、と。
まるで昔に戻った様な気分にさせられる。
そこには幼い自分に語り掛ける兄がいた。
「さぁ、帰ろうか」
差し出された手のひらが滲む。
(ああ、俺が欲しかったのはこれだったのか)
追い掛けていたのは追い抜きたかったからではなく、肩を並べて歩きたかったから。
「うん、兄ちゃん」
唯、それだけだったんだ。
【幼い頃への憧れ】
(指先一つ動かせない俺を貴方は兄の顔で笑った)
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