たった一言で良いから




ぐらり、と世界が揺らいだ。
肺いっぱいに吸い込んだ有害な煙を時間を掛けてゆっくりと吐き出す。灰色の煙の向こう側、そのひとの手のひらがこちらに差し伸べられた。知らず片方の腕を伸ばして、その手のひらを握る。想像していたよりも細い感触に思わず笑みが零れた。煙草の先を灰皿に押し付けて、温かな体温を自分の方へと引き寄せる。バランスを崩した身体は酷く容易に腕の中へと収まった。逃がさない様にきつく閉じ込める。自分の低い体温とそのひとの高い体温が混じり合って、ひとつになってしまえば良いと思った。腕の中で大人しくしていられないそのひとに囁きを落とす。耳元でそっと。

「    」

見る見る内に真っ赤に染まる頬に噛み付く。息を詰める感覚が直に伝わってほくそ笑んだ。熟れた果実に歯を立てて、軽く歯型の付いた部分を舌先で撫でる。身動ぐ身体を抱き竦め、発せられる罵声は聴こえない振り。どうせならその腕を背中に回して、不器用ながらに甘い言葉を囁いてくれれば良いのに。そんな絵空事が思考を巡る。この想いに応える何かを求めて止まない自分を嘲笑った。押し付けるだけの愛しか知らないから、困惑に揺れる表情を見ない振り出来る。想う分だけの想いが返るなら、きっと困惑するのは自分なのだと判らない筈がないんだ。
(けど、気付かない振りは得意だから)

「せんぱい、愛してるって言って?」





【求愛のススメ】



(その一言で射止めてみせて)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -