お年頃なんです


(※高校生パロ)



ぱたぱた、と涙が溢れ落ちた。

床に弾けた滴をぼやける視界で見詰めた。
息が詰まる感覚もない。
唯、粘膜を潤して、落ちて行く。
ソファに腰掛けた儘、中々覚醒し切れない思考をどうにか叩き起こそうとしていた所だった。
不意に響いた涙の溢れ落ちる音に自分が泣いていると気が付いた。
拭っても拭っても溢れ出す涙。
涙腺が壊れてしまったのだろうか、とぼんやり考える。
確かに泣いたのは随分と久し振りな気がした。
もしかすると自分はずっと泣きたかったのかも知れない。
無意識に我慢を続けて、けれど、涙を溜めていたコップは限界を迎えた。
もし、そうならば、コップが空になるまで泣いてしまえば良い。
涙を手の甲で拭いながら立ち上がり、バスルームへと向かった。
服を着た儘でバスルームに足を踏み入れ、シャワーのコックを捻った。
バスルームの床に座り込んで、勢い良く流れ出る冷たい水を頭から被る。
濡れた服が肌に張り付く感触に不快さを感じながらも、もう指一本動かす気になれなかった。
徐々に体温を奪われて行く感覚が思考を更にぼやけさせた。
降り注ぐ冷水の中、今、自分が泣いているのかさえ曖昧になる。
水が小さな渦を作って排水口に吸い込まれて行く。
その様を見詰めながら、知らずそれに手を伸ばした。

「なーにやってんすか、アンタは」

不意に響いた声に身体の動きが止まる。
背後から伸びた手がきゅっ、とコックを捻った。
降り注ぐ冷水が途絶える。
それと同時に身体を包んだ温もりに心臓が締め付けられた。

「あーあ、こんな冷たくなっちまって」
「クル、…な、んで」
「夏休み入ったんで遊びに来ました」
「鍵は」
「それを俺に聴くんすか?」

犯罪だ、と力なく毒付けば、すみません、と悪びれもない謝罪が返った。
冷えた身体にじわじわ、と熱が伝わる。
然程高くない筈の、憎たらしい年下の男の体温が酷く心地好く感じた。

「んで?アンタは何やってんの」
「…シャワーを浴びていた」
「服も脱がずに?」
「そうだ、」
「へー」

まるで興味がないかの様な返事と共に、背後から顔を覗き込まれる。
その視線に居心地の悪さを感じて、不規則に目が泳いだ。
髪から水滴が伝い、頬を濡らす。
涙はもう流れていなかった。
相手にバレない様に胸を撫で下ろす。
泣いている姿など晒したくはない。
暫しの沈黙が流れ、なぁ、と呼び掛ける声が耳元に触れる。

「何だ」
「目、赤いですよ」
「!」

咄嗟に相手から顔を背けた。

「あ、やっぱ泣いてたんだ」
「なっ、ち、違う!」
「んじゃあ、何で顔背けるんすか」
「き、貴様の顔が近いからだっ」
「ふーん?」
「判ったなら離さんかっ」
「それって期待しちゃうって事?」
「…は?」

ぽかん、と口を開けた儘、動きが止まる。
何を言ってるんだ、この莫迦は。

「いやね?ヤラシイ気分にでもなってくれたりすんのかなー、と」
「やらしい?」
「そ、ほら、服濡れてるし、密着度も中々だし、健全なオトコノコとしては中々に美味しいシチュエーションと言うかー」
「っ、莫っ迦者!」

べちっ、と手のひらで顔面を叩いてやった。
うぐ、と小さく呻きが聴こえたが気にしない。
拳じゃなかっただけ有り難く思え、莫迦者が。





【センチメンタルサマーホリデー】



(意味もなく泣きたくなるお年頃)



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