触れて、触れさせて




ぼんやりと見詰めた先にその色はあった。
無意識の内に伸ばした腕。
触れた指先にぴくり、と反応したかと思うと、視線がこちらに向けられた。
どうした、と低音が思いの外柔く響いた事に何処か擽ったさを感じながら、何でもないですよ、と答えた。
その言葉に訝しげな表情を浮かべたが、そうか、と特に追求して来る事はない。
一定の距離を保ちながら呼吸を繰り返す日常。
それが崩れ掛ける事がある。
先程の様な不意の行動で。
改善すべきは自分で、相手に非はない。
多分、と内心溢した言葉は、当然ながら相手には届かない。
直ぐ傍にある温もりに無性に触れたい、と思う事が時折あって、最近はその衝動が訪れる間隔が狭まりつつある。
触れたいなら触れれば良い。
我慢と言うものは自分がするものではない、と言う身勝手な認識が自分にはある。
なのに、触れる事に躊躇う自分も確かに存在した。
(らしくない、何で俺が)
舌打ちは苛立ちを抑制する所か加速させた。
不意にクルル、と低音で呼ばれた名を辿れば、その色と視線がかち合う。
舌打ちの原因を探るかの様な眼差しは罰が悪く、不自然さが全面に出ない様にゆっくりと視線を逸らした。
しかし、それは頬に触れた温もりによって妨げられる。
添えられたものが手のひらだ、と気が付くのに数拍を要した。
相手から触れられる。
余り馴染みのない出来事で、反応に困る。

「何、スか」

絞り出した声が掠れた。
酷く乾いた喉は痛みを訴える。
瞬きの仕方を忘れて、唯、視線を合わせた儘動けずにいた。
触れ合う部分が熱い。

「顔色が悪い」
「んな事ねーよ、」
「意地っ張りめ」
「アンタに言われちゃ終わりだな」

ふ、と空気が振るえた。
浮かべられた柔い笑みが妙に苛付く。
餓鬼扱いをされている様で気に食わない。

「大人しく休むんだな」
「…へいへい、判りましたよ」
「ん、良い子」
「な…、」

絶句、とはこう言う事を言うんだろう。
(何だ良い子って、俺を一体どう言う位置付けで把握してんだ、このひとはっ)

「お休み、クルル」

離れる前に一撫でされた頬に残る感触が目眩を呼ぶ。
何もなかったかの様に去って行く赤色が酷く恨めしく思えた。





【触れられると言う事、触れられないと言う事】



(アンタのせいで寝付きは最悪だ)



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