莫迦な話をひとつ
(その引き金を引いて楽にしてくれないか)
向かい合って触れ合って求め合って、一体何がいけないと言うのか。
許し等要らない、罪だと言うならそれで良い。
身勝手と言われればそれまでで、拒絶するなら殺してくれれば良い。
共存か離別か、道はふたつにひとつ。
愛して欲しくて、それが無理だと言うならば殺して欲しい。
「ほら、簡単だろ?」
セーフティは外してある。
後は引き金を引けば事は終わる。
愛か死か、単純明快で実に理解し易い。
手に入らないなら、せめてその手を汚して、一瞬だけでも俺だけのものになれば良い。
「貴様は莫迦か」
「頭の出来はアンタより良いつもりスけど」
「頭の出来が良いからと言って、莫迦じゃないとは限らんだろう」
「だって、アンタが好きなんでスよ」
「その結果がこれか?」
相手に銃を握らせて、その手首を掴んで銃口を自分のこめかみに固定させた。
引き金を引けば確実に死ぬであろう場所。
「至近距離で打つと傷口が火傷みたいになるんでスっけ?あんま拝みたいモンじゃないスね」
「この場合拝むのは貴様じゃないだろう」
「まぁ、そうでスけど」
鮮明な赤がこちらを見据える。
その色に覗くのは怒りか呆れか。
どちらでも良い。
その意識がこちらに向いているだけで胸の奥で燻る感情が満たされる。
例えそれが憎しみでも、自分を見てくれるなら何でも良かった。
餓鬼っぽいと笑われ様が、安っぽいと罵られ様が、それを突き通す事こそが唯一の愛情表現で歪んだ性根を正すには遅過ぎる。
「俺は引かんぞ、」
発せられた低音が耳朶に触れる。
心地好いそれに耳を貸しながら、細められた双眸に脆さを見た。
「莫迦者」
声色は酷く優しい。
くしゃりと歪んだ表情。
今にも泣き出しそうな笑顔。
息が詰まる。
それは一瞬の出来事。
「離すんだ」
「アンタが、」
声が情けなく掠れた。
「クルル」
「好き、なんだ」
(「愛して下さい」)
(「不可能ならば」)
(「殺して下さい」)
【やさしさなんてかけらもいらない】
(強請ったのは最上級の愛情)
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