僕をあの地へ連れてって




頬を伝う滴が涙でない事を祈るだけ。
(俺にらしくない事をさせてんなよ、先輩)

灰色の空が泣き出し、世界を濡らす。
泣き止む気配のない空の下、そのひとは傘も差さずに立ち尽くしていた。
そのひとの腕には白い花の花束が抱えられている。
弔いだ、とそのひとは言った。
とても小さな、それでいて確かな声で。
(珍しく頼み事なんてして来るから、一体どんな天変地異の前触れかと思っていたのに)
そのひとは、嘗て共に戦った戦士を、同士達を弔いたいと言った。
嘗ての戦場と化した大地には何もなかった。
遺体を埋めた形跡も、墓も、何も。

「此処には植物が根付かない」

剥き出しの大地を踏みしめて溢すそのひとの言葉は、まるで懺悔の様だ、と思った。

「血を吸い過ぎた、と誰かが言っていた」

そのひとの双眸は遠い昔を見ていた。
雨音に掻き消される事なく耳朶に触れる低音は妙にはっきりしていて、逆に心に波を立てる。

「生きたい、と」

降り頻る雨の中、輪郭が歪んでも尚鮮明な赤色。

「死にたくない、と」

せめてその肩が少しでも震えていたなら、抱き締める事だって容易な筈だ。
(なのに、アンタは)

「そんな思いを煤って祓われる事がないから、こんな何もない場所に為ってしまった、と」
「んで、弔いって訳ですか」
「この世に縛られてるのも楽じゃないだろうからな、後は…」

単なるエゴだ、とそのひとは言った。
雨は未だ止む気配はなく、世界を濡らし続けている。
白い花の花束が大地に静かに放られる。
手向けの花の花びらが一枚、雨の滴に弾かれて散った。
懺悔の真似事をする餓鬼の様にそのひとは祈りを捧げた。
見送る為の言葉なんて知らず、唯、安らかに眠れ、と。





【我が戦友達よ、安らかに眠れ】



(祈りは天に昇る)



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