サマーデイズ



進まない作戦会議、議題の他は落書きばかりのホワイトボード、紙飛行機と化した書類、とうに氷が溶け切って薄くなったメロンソーダ、お手上げ状態で上体を預けた机の冷たい感触、特別なものなんて何もなかった。ただ、それ等が揃えば必ずと言っていい程飛んで来る怒声が今はない。用意された席は五つ。その内空席が一つ。それを見詰めて小さく唸る。エアコンの人工的な風が頬を撫でるのが煩わしかった。

赤が足りない、なんて、まるで絵の具やクレヨンの赤色を使い切ったみたいな言い草だと思う。今ならカラーリングスプレーの方が有力な気もするが、そんな話はどうでもいい。結局何の進展もなかった会議をお開きにして、散らかすだけ散らかした机上をてきぱきと片付けて行く小麦色の肌の少女に「いつもすまないでありますなぁ」と苦笑すると、「いえ、早くお帰りになられるといいですね」と微笑みを返された。一瞬ぽかんとしてしまったが、後は苦笑を深くする他ない。ああ、女の子は鋭いな、なんて感心しながら、自分が判り易いだけなのかも知れない、とも思った。だとしたら隊長としての威厳も何もない。今更だが、やはり情けないものがある。どうしてくれるんだ、と投げたところで返る声はない。

「侵略作戦とは別件で上司令部から召集がかかった」と告げて、彼はこの青い星を後にした。内容は当然極秘。まぁ、戦闘要員である彼が呼び出されたのだから、内容は察するに容易い。彼の背中を見送ってから約二週間、彼は、赤い悪魔は戦場を舞っているんだろう。遠征している戦士を呼び出す程だ、戦況はかなり不利と見た方がいい。だが、そこに不安はない。彼の背中を見送ったとき、首の後ろがざわつく嫌な感じはしなかった。彼とはまた会える、それは何処か確信めいた直感。
「我が輩、こう言う勘は当たるんだよね」
すっかり片付いた空間でぽつりと呟く。自分以外誰もいない、エアコンと時計の秒針の音が妙に響く。ごろりと仰向けになって、煌々と光りを放つ照明に目を細めた。
(けど、あんま待たされると退屈でありますなぁ)
外の茹だるような暑さが壁越しに伝わって来るようで溜め息もより深くなる。
(プールで涼みたい。夜はやっぱ花火かなぁ。あ、頭痛くなる位かき氷食いたい。それから、今年も祭りの出店で資金稼ぎしないとでありますな、今年は何にしよ、)
やりたいこともやらなきゃいけないことも山程ある。けど、緑、青、黄、黒、そして赤。全色揃わないことには始まらない。
「お偉いさん方の好きな奇跡とやらを起こして早く帰って来いよ、ギロロ」

(君がいなきゃ始まらない)



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