痛みすら塗り潰す鮮明色、貴方





あかいあかい
しかいをうめつくすほどの

「なぁ、」

あかいあかい
せかいをぬりつぶすほどの

「泣くなよ」

あかいあかい
すべてをのみくだすほどの

「先輩」

あかいあかい
それはなんのいろ?

「なぁ、」





【沈黙する世界に唯一つ色を落とすなら】



口元を歪めて皮肉の一つも吐いてやろう。
そう何処か意固地になっていた。
甘い言葉を囁くよりも、随分と自分に似合いな愛情表現だと思う。
大地を背に空を仰げば、其処にはまるで無力な自分を嘲笑うかの様な真っ青な空が広がっていた。
霞む視界の中、雲一つない完璧な晴天に向かって意味もなく腕を伸ばす。
広げた手のひらは何を掴むでもなく虚空を描き、その儘重力に身を委ねて落ちる。
落ちる、筈だった。
不意に手のひらに感じた温もりは、俺と世界を繋ぎ止める愛しいもの。
そのひとを象る色が好きだ。
そのひとを彩る色が好きだ。

「クルル!」

ああ、アンタがとても好きだ。
(夢見がちなんじゃねーの、俺)
真っ青な空に存在を刻む深い赤。
脳裏に鮮明に蔓延るそれは、この世界で唯一気高さを失わない色。
思わず口元が緩む。
そのひとが余りに愛しくて仕方ないから。

「先輩、」

自分でも驚く程掠れた声で愛しいひとを呼ぶ。
吐き出す筈だった皮肉は喉に支えて形にはならなかった。

「莫迦者、ば…かもの…」
「酷ぇなぁ…愛の言葉の一つや二つ囁いてくれたって良いんだぜ?」
「黙れ、喋るな、頼…むから」

まるで神に許しを乞う様に手のひらを握る力が強められた。
両手で包まれるそれに出来る限りの力を込めて握り返す。
この温もりに繋ぎ止められるなら、この世界に居座るのも悪くない。
それこそ朽ち果てるまで、ずっと。

「死なねぇよ、俺はアンタに殺されるって決めてんだから」
「っ、莫迦者…っ、貴様は、貴様は何処まで…」
「アンタに殺されたい、アンタが良いんだ、アンタじゃなきゃ御免だ」

数え切れない程の命を奪ったその手で、罪で真っ赤に染まったその手で、どうかどうか引き金を引いてくれ、と。
酷く掠れて耳障りな声で繰り返す懇願。
莫迦みたいに何度も何度も。
愛を囁く様に甘く甘く。
(ああ、ほんっと莫迦みてぇ)

「アンタに殺されるまで死なねぇから、だから、んな泣きそうな顔すんなよ」

握られた手のもう片方の手をそっと相手の頬に伸ばした。
顔に走る傷痕を指先で辿る。
寄せられた眉根と嗚咽を噛み殺すかの様にきつく結ばれた唇が痛々しい。

「なぁ」

戯言を並べているのは判ってる。
けど、アンタに本音を晒すのも悪くないと思ったんだ。

「泣くなよ」

泣いてない、と強がる肩を抱き寄せる事すら叶わない自分が殺したい程憎いなんて。

(傷が癒えたら、嫌と言う程この腕に抱き締めるから)
(泣かないで、愛しいひと)



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