君は僕のもの、だった



触れた燃えるような赤は、やはりと言うか、判り切っていたことだが、指先を焦がすことはなかった。冷たくさえ感じるそれを指先に絡めながら、薄く笑みを象る。
眼前には怪訝そうな表情を浮かべた幼馴染みが、嘘みたいに澄んだ双眸でこっちを見ていて、硝子玉みたいなそれに映り込んだ自分が随分と汚れて見えた。
現に自分はとうの昔に汚れ切っていて、引き金を絞る感覚も、ナイフで肉を引き裂く感触も、馴染みになって久しい。その事実に痛む胸もなく、ただ、ほんの少しの虚しさがあるだけだ。
指先に絡ませた赤にそっと口を寄せると、耳元にそっと息を吹き込むような形になる。微かに肩が震えたのに気付いて、つい出来心で髪だけではなく、形の良い耳にも口を寄せた。わざとらしくリップ音を付け足し、加えて、耳を上唇と下唇で挟むように食んでしまったのだから、既に出来心の域ではない。
びくりともう一度肩が大きく震え、それと同時に声が上がった。戸惑いを孕んだ拒絶が耳を撫でる。肩を押されて身を離せば、自然と指先に絡めた赤もすり抜け、それを未練がましく視線で追った。
諦め切れないのは、自分だけだ。
「お前には、」
きつい視線が肌を刺す。ここが戦場なら、その視線だけで敵を殺せるんじゃないかと思うほどだった。
「お前にだけは、やらん」
「判っているでありますよ」
降参とでも言うように、両の手のひらを相手に晒す。
「今のはちょっと魔が差したんであります。もう、しないから、さ」
許してよ、と笑いかければ、まるで傷付いたような顔をした。いや、多分、そうであればいいと言う自分の願望が見せる錯覚なんだろう。
我ながら本当に未練がましい。

(こんなにもまだ、好きなんて)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -