それが悪足掻きだとしても



彼は静かに終わりを待っている。
銃器を念入りに手入れし、その指先で猫の喉を擽り、一向に進む気配のない侵略作戦に渋々ながらも目を瞑りながら、彼は静かに終わりを待っていた。
それは彼自身の終わり、つまりは死と呼ばれるものであるかも知れないし、世界規模の話かも知れない。
自らの死、世界の終焉。
彼はそう言う類のものを待っている。
自らそこへ飛び込もうとしている訳ではなく、焦がれているのとも少し違う。
彼は、ただ、待っているのだ。
だから、彼が銃器を手にしていても慌てることはない。
彼が自ら命を絶つことはありえない。
根拠も何もないが、これは確信だ。
もし、彼の指先が引き金を絞るために存在するのだとしても、銃口は敵に定められると決まっている(この件に関しては、ある条件でのみ覆ってもいいと思っているが、今は置いておくことにする)。
まるで、いとおしむような手付きで磨かれて行く銃器は、彼の手中にある限り、持ち主を傷付けることは出来ない。
それが羨ましくもあり、不憫だとも思う。
どちらにせよ、ものに対して抱く感情ではないな、と小さく息を吐くように笑った。
それに反応したのか否か、不意に彼が顔を上げた。
それまで手元に注がれていた視線がこちらを真っ直ぐに捉え、彼の双眸に自分の姿を見る。
数多の命を奪って尚、彼の瞳は濁ることを知らない。
硝子玉のように澄み、極たまに感情を映さないそれは何処か居心地を悪くさせる。
が、それでも、彼の視界に自分が入り込むと言うのは気分がいい。
矛盾は巡りに巡って、結局のところ自分は彼のことが馬鹿みたいに愛しいのだ、と言う結論に至った。
今更、本当に今更だ。
「クルル、」
風が緩やかに世界を撫でるよう、彼の低音が耳朶を撫でる。
「遠くへ行かないか」
行って来る、ではない。
彼は確かに行かないか、と口にした。
語尾が上がるでもない抑揚のない響きからは、彼がこちらの返答を求めているようには感じられない。
肯定も否定も端折られてしまった。
自分が許される発言としたら、多分、
「何処、行きます?」
「何処でも。遠ければ遠いほどいい」
「世界の果てとか?」
ふ、と唇の隙間から吐息を漏らすように彼が笑った。
硝子玉が温かみを帯びる。
「世界に果てがあるのなら」
彼は、ただ、待っている。
「いつかあっちから来てくれるさ」
酷く穏やかな表情を浮かべて、彼は終わりを待っているのだ。

(じゃあ、世界の果てが来る前に貴方を連れて何処か遠くへ)



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