微々たる狂気は付きものです





閉じ込めて、世界を遠ざけて。
(アンタの何もかもを奪ってしまえば)

触れて離れて、また触れる。
そんな行為を何度も繰り返す。
体温を分かち合って、まるで互いが溶け合う事を渇望するかの様に。
溢した吐息に内側で燻る感情を含ませれば、吐き出した分だけ身が軽くなった気分を味わえる。
実際に感情の分量が減る筈もなく、燻る感情に蝕まれて行く自分を誤魔化す為の悪足掻きに過ぎない。
一瞬にして自我までもが喰らわれてしまっても可笑しくはないのだ、といつも思考の片隅で考えながら、触れる温もりを自分だけのものにするにはどうすれば良いかを模索していた。
何処か誰も知らない場所に隔離してしまえば簡単なのかも知れない。
自分以外の選択肢を根こそぎ排除する事で、相手の世界を狭めてしまえば良い。
しかし、その方法を実行する気にはなれなかった。
数ある選択肢の中から自分を選んで欲しい。
そんな事を思う自分が堪らなく可笑しくて、嘲る様に口元を歪めた。
(平和ボケも此処まで来ると病気だな)
地球に来る前の自分なら自分以外の全てを遮断する事も躊躇わなかっただろう。
況してや、こんな甘い考えが浮かぶ事もなかった様に思う。
訝しげにこちらを窺う視線に、こちらのそれを絡めて、相手の首筋に指を這わせる。
少し力を込めれば容易く食い込む指先。

「温い生き方してると殺しちまう」

柔らかな部分を無防備に晒す戦士を皮肉を込めて笑えば、僅かに眉根が寄せられた。
しかし、這わせた指先を払い退ける事をしない相手の首に指先を徐々に食い込ませる。
所詮は戯れに過ぎない行為だと知りながら。

「なぁ、アンタの眼球を抉り出すよりも、何処か閉鎖的な空間に閉じ込めちまうよりも、息の根を止めた方が確実にアンタを俺のものに出来んのかね?」
「何だいきなり、相変わらず突拍子もない奴だな」

溜め息混じりの低音が耳朶に触れる。
呆れの滲んだその声すらも心地好く感じられて、自分が何れ程までに目の前の存在に狂わされているかを思い知る。

「今、アンタの世界を構築する全ての要素を壊して行くとどうなるかって話」
「物騒な事しか考えられんのか、貴様は」
「今更だろ?」
「尚悪いわ」

首に掛けた手が相手の体温で包まれる。
重ねられた手のひらの温もりは酷く優しくて、きっとこの眼前の戦士は餓鬼を諭す様な気分でいるんだろうな、とぼんやり思った。

「クルル、」
「はーい?」
「眼球を抉られれば、俺は貴様を見る事は出来ない」
「まぁ、物理的にな」
「何処か閉鎖的な空間に閉じ込められれば、俺はきっと外に焦がれるんだろう」
「でしょうね」

ひとつひとつ紐解く様に答えを導かれる。
判ってる、いや、判っていた。
予想の範疇の答えに気のない返事を返す。

「息の根を止められれば」
「アンタは絶対に俺のものにはならない、だろ?」
「いや、残された貴様はさぞつまらない人生を過ごすんだろう」
「………………は?」
「それを俺は鼻で笑う、以上だ」
「いやいやいや、何終わらせてんだよ」
「何だ?質問か?」

まさかの展開に頭が瞬時に上手く働かない。
(何だよクソ、気に入らねー)
突拍子もないのはどっちだ、と内心舌打ちをしながら何とか思考を落ち着かせる。

「最後のだけ何か質問の意図に沿ってなかったんスけど?」
「別に間違ってはいないだろう?何なら試しに殺してみると良い」
「いや、試しにって…」
「後悔先に立たずと言うしな、何事も経験だ」
「………アンタさぁ、」
「ん?」

深い深い溜め息を吐き出す。
何だかとても阿呆らしくなって来た。

「あー、何でもないです俺が悪かったですすみませんでした」
「全く誠意が見えんな」
「………アンタ、実は怒ってるだろ?」
「莫迦者、呆れてるんだ」
「謝りますから、と言うかもう謝ったんでキスして良いですか?」
「なっ、貴様は少しは反省の色を見せ…っふ、」

全部全部引っくるめて、きつくきつく抱き締めて、深く深く口付ければ、アンタは俺だけのものだから。





【子供じみた狂気を翳して】



(アンタは俺だけのもの)
(それが錯覚だろうが何だろうが知った事じゃない)



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