愛を知る



それは音もなく芽生えて、気が付いたときには色付いていた。
目に見えないものを信じるほど素直な性格はしていないが、不確かなものを信じてみるのもたまには悪くないと思う。

レンズの向こう側で揺れる赤い髪が綺麗だ、とか、そう言うことがすんなりと思考の中に居場所を見出して居座る程度には、自分の中で何かが動いたのかも知れない。
自分の中での僅かとは言い難い変化が、何処か不快で何処か誇らしい。
「せんぱい」
呼びかけに振り向いた顔は妙に幼く映り、知らず伸ばした指先を咎めることを忘れているようだった。
指先で触れた頬がぴくりと震える。
頬に走る傷痕を指先で確かめるように辿ると、眉間に皺が刻まれるのに加えて眉尻が下がった。
困惑に染まった表情に口端を吊り上げ、もう一度彼を呼ぶと、更に下がった眉尻が困惑の色を濃くする。
「そんな困った顔するなよ」
「そうさせてるのはお前だ、」
「困らせるようなことしましたっけ?」
「…今、してるだろう」
「これ、困るかい?」
そう指先で擽るように頬を撫でた。
ぴくりと今度は肩が震える。
困る、と喉から絞られた声は掠れていて、双眸が細くなる様を酷く愛しく感じた。
無意識に喉を鳴らして笑うとほんの少し視線がきつくなり、それが愛しさを倍増させる。
「何故、困るか聞いても?」
「………、」
「せんぱい」
「…別に、お前に触れられるのがどうと言う訳じゃない。ただ、その…お前が、」
「俺が?」
ぐっと息が詰まる音を聞いた。
下唇を噛む仕草など、口付けの衝動を駆るだけだと知らない戦士は徐に言葉を紡ぐ。
「お前が、そんな幸せそうな顔で触れる、から」
だから困る、と。
語尾が消え入りそうな程に小さかったが、確かにそう聞こえた。
指先で触れる頬が熱を発して、見る見る内に真っ赤に熟れる。
そんなの、愛を語るも同然じゃないか。
眼前の温もりを掻き抱き、腕の中に囲った儘離したくなくなる、そんな衝動がざわりと全神経を波立たせる。
思考が停止しても、身体は反射的に動くものなのだと知った。
衝動に抗う理由が何一つ見当たらない。
温もりを引き寄せて、もう二度と離すまいと腕を絡ませる。
「っ、なっ、離…っん!」
煩い口は塞いでしまえ。

(これを愛とひとは呼ぶ)




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