消え行く運命


並べ立てられた数多の言葉は、浮かんでは形をなせずに消えて行く。それはいっそ哀れですらあって、手のひらで掬おうにも零れ落ちてしまうのは目に見えていた。それ以前に掬い上げるだけの素直さを持ち合わせてはいない。何処かに置いて来てしまったのか、はたまた基からありはしなかったのか。どちらにせよ、数多の言葉が消え行くのを覆すことは出来ない。それだけが明白な事実だった。
「貴方は、何処まで馬鹿なんですか」
緩く波打つ赤がはらりと揺れる。さぁ、と傾げられた首と象られた笑みに芽生えた苛立ちを拳をきつく握ることでどうにか堪えた。鋭利な視線を投げたとて、おとこの笑みが深まるばかりだと理解しているがどうにもならない。
「貴方の薄っぺらい言葉なんて要りません」
好きや愛してるの類なんて、口ではどうとでも言える。そんな不確かなものに揺さぶられる自分が酷く滑稽で、甘ったるい言葉を何気ない顔で羅列するおとこを憎らしく思った。浮かべる笑みも囁く言葉も、おとこの本心とは程遠いものに思えて仕方がない。
(だれもあいしてなどいないくせに)
噛んだ下唇がじわりと痺れ、感覚が麻痺して行った。胸中での悪態を知ってか知らずが、おとこはまた消え行くしかない言葉を産み落とす。

(欲しくのは、そんなものではなくて)




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