あのね



すくいあげてくれる手のひらを待っていたんだと思う。それは無条件に優しくて、知らず涙が溢れてしまうような、自分にとっては過ぎたるものなのかも知れない。それでも、温もりを与えられると嬉しくて、手離すことなどとうの昔に出来なくなっていた。貪欲で、醜悪な、気高い彼を想う筈の心は哀しい程に深く暗い。
(きみが、ぼくだけのものならよかったのに)
喉に貼り付いた言葉がもどかしい。それを誤魔化すように呼んだ彼の名が掠れた。少しばかり耳障りなそれを彼は上手に掬ってくれる。小首を傾げながら、先を促す低音が耳に心地好い。
「あの…ね、」
変に渇いた喉から絞られる声はやはり掠れて無様だ。それでも、彼は小さく相槌を打ちながら、一字一句逃すまいと耳を傾けてくれる。それは今も昔も変わらない彼の長所であり、僕を駄目にする要因の一つでもある。彼は僕を駄目にするのが酷く上手い。それが無自覚であるから、僕が彼に適う筈もないんだ。
「僕は、君が…」

(君がいないと呼吸すら出来ない、なんて強ち笑い話でもない)




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