私が素直になれない分だけ


(水滴が溢れ、零れ落ち、水面を揺らした。広がる波紋が感情までもを揺るがし、胸のざわめきから目を背ける様に瞼を下ろす。視覚を閉ざした分だけ聴覚が冴え、水滴が水面を打つ音が妙に響いた。零れた水滴に色があるのだとしたらどんな色だろうか、と考える。願わくは、彼の双眸と同じ色であって欲しい。あの、晴れ渡る空の様な、透き通る海の様な、当たり前にあるのに、惹かれて止まない青と。あんなにも綺麗な色に染まるのなら、この涙は寂しさからなるものではない、と胸を張れるのに)

離れている時こそ彼のことばかりを考えてしまう。彼の前で想いが溢れてしまうのが怖くて、会えない時間が募るほど臆病になる自分がいる。それでも会いたいと願ってしまうのは私が彼を好きだからで、それが自分を臆病にする要因なのも知っていた。太陽を思わせる眩い金色の髪に目を細めると、久しく耳にすることのなかった声色に名前を呼ばれる。ぎゅっと締め付けられた胸を知ってか知らずか、彼の手のひらがくしゃりと頭を撫でて、更に胸が苦しくなった。
「久し振りだな」
言いたいことなんてあり過ぎる位なのに、彼の軽快な笑みを前では、ただ、小さく頷くしか出来ない。せめて、会えて嬉しい、と言えたら良いのに、意地を張ることばかりが得意になってしまった自分に嫌気が差す。軽く下唇を噛むと、不意に伸びた彼の人差し指に顎を掬われ、親指の腹で唇を撫でられた。びくりと肩が跳ねる。
「キ、…ド」
「元気にしてたか?」
小首を傾げる彼に何度も頷いてみせた。彼の指先が触れる部分が徐々に熱を孕む。触れる部分から気持ちが伝わってしまいそうで怖い。やんわりと指先から逃れようとすると、指先が唇から頬へと滑った。なら良かった、と彼の笑みが柔らかくなる。
「やっぱ、お前の顔見るとほっとするわ」
私と違って、会えて嬉しい、なんて彼はさらりと言えてしまうんだ。

(ああ、なんて、なんてずるいひと)




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