濡れた肩口



器用な筈の指先が不器用に指先に触れて来て、それをそっと握ると、らしくもなくおとこは泣きそうに顔を歪めた。
指先から伝わる低い体温と微かな震えが、謂われもない不安を生み、触れ合う部分をけして離すまいと、互いの指を絡め合う。
気の利いた言葉なんて浮かびはしない。
どうした、と小さく問いかけても、何でもないですよ、と常より幾分掠れた声で返される。
「何でもない顔じゃないだろう、」
「ほんと、何でもねぇって」
ゆるりと頬に頬を擦り寄せて来たかと思ったら、おとこは肩口に顔を埋めた。
柔らかい髪が頬を撫で、甘える素振りに胸が痛む。
指先から伝わる震えは相変わらずで、宥める様に空いた右の手のひらでおとこの頭を撫でた。
ふわふわと触り心地の好い髪を指先で梳き、肩口から届くおとこの呼吸音に耳を貸す。
それに重ねて息を吐けば、おとことの距離が少しだけ近くなった気がした。
けれど、おとこの真意が見えるでもなく、思い上がりも良いところだ、と自身を笑う。
頭を撫でる手のひらが酷く頼りなく映り、それを誤魔化す様におとこの名を呼んだ。
名前を繰り返し呼びながら、大丈夫だ、と時折零すと、微かに空気が震える。
「アンタの大丈夫は、誰に向けたもんだよ」
喉元で笑いを含んだくぐもった声が響く。
「…貴様に向けたものじゃないのは確かだ」
「だよな、それ聞いて安心したよ」
「ああ」
触れ合う部分の熱が上がる。
頭を撫でていた手をおとこの背中に回すと、応える様におとこの左手が背中に回った。
「アンタ、あったけぇな」
「クルル、」
「こんなあったけぇのに、あっさり逝っちまうんだろうな」
背中に回った左手にぐっと力を込められ、きつく抱き寄せられた。
「こんな、あったけぇのに、な」
「ク、ル…」
「せんぱい、」
「ん、」
「俺、馬鹿みたいにアンタを」

(愛してる、がこんなに痛いなんて知らなかった)



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