人の恋路を邪魔する奴は


「ドラちゃんて、温いんやなぁ」
「何?あんまりベタベタしないでよ」
「まぁまぁ、そない言わんと」
ええやないですか、と締まりのない笑みを浮かべると彼の眉間に皺が刻まれた。
レンズ越しの闇色が細められ、如何にも不機嫌な視線が注がれる。
「って言うか君にドラちゃんとか呼ばれる筋合いないんだけど」
「え、ドラちゃんて可愛ない?ドラはんとか、えもんはんとか、何や他人行儀やないですか」
「可愛いとかそう言うのどうでも良いし、君と僕は確実に他人同士だから。っもういい加減離れてくれない?」
「えー、」
「キッドの回し者の癖に僕に触るな」
「ちゃいますて、確かにキッドはんの相棒やらせてもろてますけど、」
「煩い黙れ」
辛辣な言葉と共に彼の肩に回していた腕を撥ね除けられた。
特に痛みはしないが、どうも虚しい気持ちになる。
彼は間合いを取る様に座る位置をずらし、ソファーの端に置かれたクッションを抱えて座り直した。
ふたり分の重みにソファーが軋みを上げ、その音がやはり何処か虚しい。
自分と彼との間のあとふたりは座れるだろう距離を詰めようとすると、それ以上こっちに来たら酷いよ、と柔く微笑まれた。
「別嬪さんやのにおっそろしいおひとやなぁ」
「お褒めに与り光栄だよ。どうもありがとう」
にっこり。
そう表現するに相応しい笑顔。
世間一般的には、非の打ちどころのない笑顔と評されるでだろう表情を湛える彼の闇色は少しも笑っていない。
「そない邪険にせんでも」
「僕も好んでしてる訳じゃないんだよ?君がキッドに助力するから仕方なく、ね」
「わいかて、久々の休暇に恋人に会いに行くのを躊躇うヘタレな相棒を仕方なしに引き摺って来たんですよ?」
「それが余計なお世話なんだよ。その儘ほっとけば良かったのに。と言うか、僕の可愛い可愛い妹に会うのに、何を躊躇う必要があるのさ?普通真っ先に会いに来るべきだろ、あの野郎」
「…何や矛盾してますね」
「煩いな」
彼の腕に抱えられたクッションが、これでもかと言わんばかりに抱き潰される様を横目で窺いながら、あの腕が相棒の首に回った日には確実に仕留められるのでは、と危惧する。
相棒を妹さんの家まで引き摺って来たまでは良かった。
しかし、世の中そう上手く行かないもので、いざふたりをデートに送り出そうとした正にその時、妹さんを訪ねて来た彼と出会してしまったのが運の尽き。
だが、そこで負ける訳には行かないと、ふたりを手早く追い出し、逆に彼を家の中へと引き摺り込んだのだ。
唐突と言うのもあり、流石に最初は抵抗されたが、彼は直ぐに大人しくなった。
はっきり言えば、拍子抜けする程にあっさりと。
「もっと抵抗されるかと思うてました」
「疲れることは好きじゃないんだよ」
「ほんまそれだけなん?」
「…、あのねぇ」
深く長い溜め息が空気を震わせる。
細い指先が眼鏡を押し上げ、鬱陶しげに前髪を掻き上げた。
「確かにキッドは気に食わないけど、僕は別に妹の邪魔をしたい訳じゃない。だから、嫌味の一つや二つや三つや四つ言ったら帰るつもりだったんですよ、エド君?」
「いや、充分や思いますけど」
「その程度で済ませてあげるんだから、感謝して欲しい位だよ」
「次会うた時に手酷い仕打ちするひとが何言うてますの」
「だって、あーもー、キッドの奴むかつくー」
ぽふりとクッションに顔を埋めて小さな唸りを上げる様を、こちらに視線がないのを良いことに苦笑した。

(ドラちゃん、眼鏡歪むで?)
(ドラちゃん言うな、阿呆馬)
(ほんま口悪いなぁ)



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