世界が揺らいだ。
と告げたら、
世界は揺らぎはしない。揺らいだのは貴方自身だ。
と冷たい言葉が降って来た。
冷たいと云うより不機嫌なその声色に何故か笑いを誘われて、素直に誘いに乗ったら、
不愉快だ。失礼するっ。
と顰めらる眉根。
(ああ、また機嫌を損ねちまった)
そんな事をぼんやり思いながら、踵を返して部屋を出て行こうとする彼の名を呼んだ。

「ティエリア」

案の定、こちらを振り返ってはくれない。
(けど、立ち止まりはするんだよな)
こんな些細な事で幸せを感じるのは、自分が思っている以上に彼に依存しているからなのかも知れない。
腰掛けたベッドを軋ませ、彼へと手を伸ばす。
けれど、伸ばした手は彼に届かない。
そんな事は判っていた。
彼はもう既に部屋を出る手前で、自分はそこから幾分離れたベッドの上。
それでも、その距離を自分から埋める事はしない。

「ティエリア」

もう一度、彼の名を呼ぶ。
少し掠れた、我ながら情けない声で。
彼の細い肩が微かに揺れた。

「行かないで」
「っ、貴方はっ」

怒りからなのか、少し震えた声。
それと同時にこちらを振り返って、彼は機敏な動きでふたりの距離を縮めた。
伸ばしていた手が彼の腕に触れる。
握り返して欲しかったが、彼の冷たい手のひらはきつく握られていた。
拳を震わせ、口惜しげに唇を噛む。
綺麗な顔が今にも泣き出してしまいそうで、ごめんな、と指先を彼の頬に伸ばし、柔く撫でた。

「貴方は、卑怯だ…っ」
「うん」
「自分から追いもしない癖に」
「うん」
「行かないで、なんて」
「うん」
「僕にどうしろと云うんですっ」
「…うん、ごめん」
「っ、貴方は何処まで…っ」
「卑怯でごめん、な?」
「ロックオ…」

頬を一撫でし、彼の首に腕を回す。
縋る様に両腕を絡めれば、彼は片膝を床に付いて跪く形に為った。

「俺にはお前さんを追う資格なんてないから」





【だから、君が僕を繋ぎ止めていて】



(揺らいでしまう脆弱さをお前になら晒しても良いのだ、と思わせて欲しい)




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