あの日々は夢の様に優しかった。
(もう二度と戻る事はないけれど)

空と海とが交わった瞳を細めて、彼は幸せをうたっていた。
緩く波打つ茶色の髪に指先を絡める。
欲しかったのは彼の視線か、それとも宥める様に触れる手のひらの温もりか。
どちらとも付かない感情を持て余して、唯、彼が紡ぎ出す幸せに耳を貸した。
ゆっくりと流れる時間が心地好い。
くるくる、と髪を弄ぶ。
不意に幸せが途切れたかと思うと、彼の視線が此方を捉えて笑っていた。

「お前さん達とずっと一緒にいられたら、なんて莫迦な事を思ったりする時が在るよ」

甘いよな、と溢した笑みには何処か寂しさの色が見えて、どうしようもないもどかしさが頭をもたげる。
彼に何と云えば良いのか、上手く言葉が見付からない。
こんな感情を今まで知らなかった。
心臓を掴まれて圧を掛けられるかの様な、そんな息苦しさに目眩がする。
彼に比べれば子供な自分が腹立たしくて、唇を噛み締めた。

「ずっと一緒に、さ」

そう独り言の様に溢した後、彼は再び幸せを紡ぎ出す。
静かに静かに、彼はこの世界の幸せをうたった。





【ずっと一緒にいたいと口にしたのは貴方の方だったのに】



彼に彼のうたう幸せの様な日々が降り注げば良い、と心から願った。
(今はもう遠い日の出来事)




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