彼は幸せをうたう。
聴きなれない響きは優しく耳朶に触れる。
白い肌を覆う布は外され、普段人目に付く事のない部分が晒されていた。
彼の十本の指が鍵盤の上を踊る。
旋律が旋律を追いかけて行く。
知らない筈なのに何処か懐かしい響き。
鍵盤を叩く彼の指先は細く、汚れを知らないかの様に白い。
(ああ、彼の指先は引き金を引く為に在る訳じゃないんだ)
彼が手を大切にするのは狙撃手だからだとしても、本来なら何かを愛でる為に、誰かを慈しむ為に彼の両手は存在するんだと気付いた。
現に今、彼の指先は幸せをうたっている。
聴きなれない響きの意味を読み取る事は出来ないけれど、こんなにも柔らかい音を他に知らない。
だから、これは幸せのうたなんだと思う。
緩く波打つ茶色の髪が、空と海が交わった瞳が、消えてしまいそうな白い肌が、慈しむ様な微笑みが、優しく紡がれる声が、彼を構築する全てが幸せをうたっていた。





【さぁ、幸せをうたおう】



(彼は幸せに対して貪欲な人間だ)
(そう、特に他人の幸せに関してはとても)



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