外の空気が吸いたい、と珍しく彼は僕を散歩に誘った。

湿り気を帯びた風が吹いていた。
彼の緩く波打つ茶色の髪が視界の端を揺らめく。
もうすぐ空が泣き出すな、と楽し気に笑う顔は兄貴分の彼にしては似つかわしくない程幼い。
人好きする様な、そんな笑顔だ。

「こりゃ星も見えそうにないわ」

残念がる様子は微塵もなく、空を見上げて彼はただ笑っていた。
こんなにも屈託なく笑う事が出来るのに彼は引き金を引く事を躊躇わない。
過去に一度だけ理由を尋ねた事が在る。
答えは簡単だ、と彼は答えた。

『スコープ越しの、俺の世界にはお前さん達が存在しないからさ』

だから躊躇いなど要らないんだ、と。
彼は確かにそう笑った。





【スコープを覗いた、その先】



彼には敵わない、と思った。
今でもきっと敵わない。
(彼の世界、僕等はいない)




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