俺の幼馴染のなまえは、変人だ。
制服の上に白衣を常に身につけ、授業以外は特別理科室を私室のように使っている。
とにかく、異常な理系馬鹿だ、
そして俺は今、その理系馬鹿の元へと歩いている。

(風介やヒロト以上に変人がいるとはな、)

理科室の扉を開けると噂の幼馴染が、実験器具とにらみ合っていた。
「なまえ」
「あ、晴矢さん」
「また実験かよ」
「今日は準備だけ、今しているのはこれ、」

と指差した先にはビーカーと箱の中に入っている何か、と何か焼いているらしい。
…とりあえず言えるのは、“怪しい”の一言に尽きる。

「…何だこれは」
「晴矢さん来ると思ってお茶の準備してた」
この奇妙な物体でお茶なんぞ出来るのかと思いつつも、なまえの向かい側に座る。

実験している時のなまえを見るのが実は好きだった。


下を向いた時のまつ毛が長くて、
染めていない自然な黒髪が少し癖っ毛になっていて、
メガネも日によって色が変わっていて。

ここまでなまえを近くで見ているのは、おそらく自分だけだろうと少し優越感を感じる。

理科室は無言で聞こえるのは時計が針を打つ音だけ。
それでも不思議と安心できる空間だった。

…だが、俺は現実に戻って言わなければいけないことがある。
「おいなまえ、」
「ん? 」

目の前にあるビーカーに、黒い液体が注ぎ込まれる。
「…普通はビーカーでコーヒー飲まねえよ…」
「え、普通だよ。」
「…頭いたくなってきた」

そもそも何で俺はこいつといるんだ。
特別な理由なんてないのに、いつの間にか俺は理科室に行くのが当たり前になっていて。

「あー、分かんねえ」
「晴矢さん、お困りのようだね」
(誰のせいだと思っているんだよ…)

俺がげんなりした顔で顔を上げると、なまえが目を細めて笑った。
不意にもどきっとしてしまった自分がいて。

「さて、クッキーも焼けたしお茶でもいかがです。」

白衣着てるし、実験器具で料理するわ、何考えているか分からない奴、なのに。
それでも、
目の前にいる理系馬鹿が愛おしく思う俺も、かなりの変人だ。

「晴矢さん、クッキーにつけるジャムがブルーベリーと苺とマーマレードあるんだけど、何がいい?」
「…マーマレード」

そうだ、なまえはマーマレードだ。
甘いのに少し苦い、
どっちつかずの分からない存在だ。

だけど俺は知ってしまった。
そんな不思議な存在に心奪われてしまったなんて。



マーマレードのゆううつ



―恋を解き明かす方程式なんて、ねえのかな
―…って俺なに考えているんだ………はあ。 












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