「なまえ?」
ふと、話しかけられた。
振り向くとそこには愛しい人の姿。
「なにをしてる、こんな夜中に」
「今日は、月が出てないなあって思って」
「月?」
「そう。曇り空だから、お月様が出てないの」
私は、と言うと、窓の近くでずっと空を眺めていた。
風介は私の横に立って、空を見上げた。そして、「確かに、月が見えないな」と言った。
彼は、覚えているのだろうか。
私が彼に出会った日も、月が出ていなかったことを。
私の、初恋。
相手は風介だった。月の出ていない夜、私たちは出会った。
まだ、幼いながらに恋をして、今、こうやって隣にいるわけだ。
「…確か、私となまえが出会った日も、月が出ていなかったな」
「!……覚えてたの?」
「当たり前だろう、私が忘れるとでも思ったのか?」
「…ううん、そっか、覚えてたんだ、嬉しいな」
「…なまえ、眠いか?」
「あんまり」
「じゃあ、暫く空を見ていよう。私は見ていたい気分だ」
「奇遇だね、私も同じだよ。空を眺めていたい」
風介に寄りかかって、月の出ていない空を眺める。
幸せ、ってきっとこういう事なんだろうな。
月のでないよるのこと
*雛様に提出。
ありがとうございました。
1005 柚稀
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