寿也、デジャブが起こる
2016/02/11 00:51
「寿也クン、ちょっといい?」
「…」
大学の食堂にて。ずらりと5、6人の女の子に囲まれた。
今日は奏は仕事の都合で学校に来られなくて。いつもならお昼は奏と家に帰って食べるのだが今日は雪ちゃんと征と一緒に食堂に来ていたのだ。が、雪ちゃんは定食に異物が入っていたらしく交換に行っている。そして征はついさっきトイレに立ったばかりで今は一人だ。ちょうど1人になったときに囲まれた。いや、もしかしたら1人になるところを狙っていたのかもしれない。しかし、なぜ俺が一人になるところを狙う必要があったのだろうか。それは彼女らのリーダーらしい、確か笹野さんといったか秀人の彼女の言葉で判明する。
「はっきり言うとね、秀人に付きまとうの止めてもらえないかなあ?」
ああ、なんかデジャブ。高校の時にも同じような事があった。あの時はこんな大勢には囲まれなかったし相手は男だったけど。女の子がこうずらりと囲む様子はとっても怖い。
「秀人も迷惑がってるから」
「あー…」
ここは何と返事をするのが正解なのだろうか。高校の時、大ごとにならずに穏便に済ませる道はなかったのかと考えたこともあったが、答えは出ないままになっている。こんなことになるんだったら、もっとちゃんと経験を生かして正解の道を導き出しておくべきだったかも。
しかしなぜ秀人が付き合う子は皆この手のタイプなのだろうか。嫉妬深いというか暴走気味というか。…待てよ、秀人が付き合う子という括りで捉えてしまうと俺もその中のカテゴリに入ってしまうのではないか。まあ奏と付き合ってから少し自覚したのだけれど、俺も多分重いタイプだもんね。人のことは強く言えない。
「それは、その…。ひ…神戸君と笹野さん?が納得できる方法で済ませてくれればありがたいというか…」
「じゃあ金輪際一切秀人に馴れ馴れしくしないで!」
「……善処します」
よかったね、これで安心だね、と周りの女の子たちが同調する。あの時は同じ学校で生徒会で寮生活っていう狭い範囲で生活していたけど、今は住んでいる場所も違うし学部も違う。キャンパスは広いし普通に過ごしていたら秀人と接触する機会は極端に少ない。本当に秀人が迷惑がっているのならこちらには近づいてこないだろうし、こう釘をさされてはこちらからも近づくつもりはない。今回は大丈夫、以前と同じ轍は踏まない…はず。
「それとね、奏様にもあんまりまとわりつかない方がいいんじゃないかな?コバンザメみたいにいっつも纏わりついて。この前奏様にちょっと聞いたんだけど、結構ウザいって言ってたよ?」
ざわり、と心が震える。120%奏はそんなこと言わない。もし本当に奏がそう思ってたとしても奏はそんなことを我慢してまで一緒にいるタイプじゃないし、増してや周りの、しかもあまり関わりのない女の子にそんなことを愚痴るなんてことは絶対にありえない。そうなる前にもう直接言われてると思う。
というのは頭では分かっていてもやはり心はざわざわと落ち着きがなくなってきている。唇が震えて言葉がうまく出てこない。
女の子たちは口をそろえて、迷惑だから纏わりつくのやめなよ、とかアンタのせいで奏様がなかなか女の子達の相手できないだとか散々言っている。ああ、周りの子たちはこれを俺に言いに来たのか。
「何してんの」
そんな嫌な空気に割って入ってきたのは、お盆を手に持った雪ちゃんだった。
「別に何もないよね、みんな。行こ」
雪ちゃんに一睨みされて、女の子たちは去って行った。
俺の中にはもやもやとしたしこりが残った。
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