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赤い闇に沈んでいく

 名前は疑問があった。彼女はつい最近獄卒になったばかりの言わば新米の獄卒だ。上司である肋角に拾われ獄卒にさせて貰った、他にも仲間は何人も居るから友達も出来た、しかし、研修期間中に首を傾げることが何度かあった。

「やっと任務に連れて行って貰ったよー、怖かったー」
「え、もう行くの? 早いね」
「なに言ってんの名前、アタシなんかこれでも遅い方だよ」
「……え?」
「というか、アンタ研修中はほとんど班にいないよね。なにやってんの?」

 彼女の言葉に目を見張るしかなかった、なぜなら彼女はこの研修期間ずっと自らを拾い上げてくれた上司肋角の傍に居たからだ。彼は自分を凄く大事にしているが、時折過保護すぎると言っても過言ではない部分が見受けられていた。彼女が研修のため任務へ赴く時は別の人を用意させて行かせない様にしたり、書類など頼まれた時も肋角自らがそれを引き受けたり。理由を聞いても「お前は傍にいるだけで良いんだ」なんて言われるばかりだ。

「肋角さんの、傍にいる」
「ふうん? アンタ獄卒じゃなくて秘書にでもなるつもり?」
「そういうわけじゃないけど……何かやろうとするたび、全部あの人が引き受けてくれるの」
「……よく分からないけど、愛されてんのね」

 獄卒になるためにこの屋敷に来たのに、確かに今のままでは名前は肋角の秘書だ、いや、秘書にすら該当しない、なぜなら彼女の身の回りの仕事は全て彼がやっているのだから。
これが愛されているからかは分からないが、いつまでも彼に甘える訳にはいかない、結局押し問答の末折れてしまうのは自分だから今日こそはちゃんと言わなければ。

「私も、獄卒になるためにここに来たんだ」
「そうそう、ちゃんと自我をもちなよ!」

 バンッと背中を叩かれて変な声が零れ出たが、それが名前をやる気にさせた。励ましてくれた友達に有難うとお礼を言って、肋角の部屋へと赴く。本来一人で出歩くなと言われているほどだが毎回彼の傍に居るわけも行かないから暇な時はこうして館内を覚えたりしている。



「肋角さん」
「遅かったな、どうしたんだ」

 執務室へ入ると相変わらず変わらない煙草のにおい。休憩中なのだろうか、席を立ち軍帽を外して煙草をふかしている上司の姿があった。机の上には自分がやるはずだった書類の山、これを、一人でやると言わなければ。

「あの、書類」
「安心しろ。ちゃんとやっておくぞ」

 ふっと緩められた目線は愛おしさが垣間見えている、けど今はそんなことをしている場合ではない。私も、獄卒を目指すものだ、上司に甘えてばかりはいられない。

「私が、一人でやってみます」
「……」

 これでもかというほど彼の緋色の目が見開かれた。正直怖い気もするけど、毎回毎回こんなことでビビッてはやっていられない、意を決して机の上にある書類に手を伸ばせば、

「名前」
「は、はい!」

 抑揚のない声で名前を呼ばれてビクリと身体が跳ねた、怖いけど、見なければ。震えを必死に押さえて名前を呼んだ上司の方を見れば、少しだけ無表情な肋角さんがこちらを見ている。

「言っただろう、お前は何もする必要はない。俺の傍にいるだけで良いと」
「しかし、私も獄卒を目指す身としては」
「上司命令だ」

 言葉に詰まる。上司命令を言われれば嫌でも身を引いておかなければどんな処罰が待っているか分からない。唇を噛み締めて「分かりました」とだけ呟いて俯き部屋を出ようと後ろを向く。友人に叩かれた肩口の熱がじんわりと残っている、せっかくエールを貰ったのに。足を踏み出そうとした瞬間、再び声が後ろから投げられた。

「……名前、背中を見せろ」
「え?」

 いきなりの発言に、変な声を上げてしまった。彼の目を見るために後ろを振り向けば赤い瞳が細められている、声はどこか怒気が孕まれており耳朶に沈んでいく。言う事を聞かなければ、咄嗟にその反応が来て背中を向けばいきなり軍服のボタンに手をかけられる。

「っ、ろっか、くさん?」
「背中を見せるだけ良い」

 抵抗する間もなくボタンを開けられてワイシャツも半分だけ脱がされる。羞恥心が顔を真っ赤になるのが分かるが肋角さんはやめる気配が無い。むき出しになった肌に視線が注がれて妙な感覚になってくる。

「あの、え」
「どうして赤くなっているんだ? なにかされたのか?」
「赤い?」

 焦ったような彼の声に驚きつつ、自分でも上手い具合に首を動かせばほんのりと肩口が赤くなっているのが分かった。と言っても本当に良く見ないと分からないくらいの赤みだ、常人では気付かないだろうに。どうして気付いたのか、首を傾げながら服を着て肋角さんを見れば眉を潜めて答えを待っている。

「多分、さっき友達に叩かれたからだと」
「……叩かれた?」
「あ、いえ励ましのエールということで」
「名前」
「、はい」

 様子がおかしい、どうしたのですかと言う前に身体を引っ張られて、気が付けば目の前は真っ暗だった。背中には肋角さんだと思われる腕が絡まれており必然的に抱き締められていると察した、いきなりの行動に驚いて思わず身体を引き離そうとすれば強い力でさらに抱き締められて身動きが取れない。

「やだっ、肋角さん!」
「やはり一人で出歩かせるべきではなかった。名前、これからはずっと傍にいろ」
「いえ、そういうわけには」
「お前が傷付けられている姿は見ていられない、お前はなにもしなくて良い、ただ俺の傍に居てくれるだけで良いんだ」
「あの……仰っている意味が」
「ああそうだ、そうと決まれば部屋も今日から一緒にしよう。女子寮でも何をされるか分からないからな」
「肋角さん、聞いてますか?」
「名前は、一生俺の傍にいるだけで良いんだ」

 顔を見られて、大きな手が頬を撫でる。うっとりとした熱っぽい視線は色っぽいが奥底には不気味な何かが渦巻いており私の中で何かが走りぬけた感覚がした。
言葉が通じていない。この人は何か、可笑しい。脳内で警報が鳴り響く、早く、早く逃げなければと思えば思うほど身体は硬直して彼の腕が身体に絡みつく。

「わたし、は」
「これは上司命令だ、逆らえればそれなりの処罰が下る事くらい、分かってるだろ?」

 処罰。その言葉が、なにより上司の口から出ることでいっそう恐怖を駆り立てた。そうしたら獄卒でもいられなくなってしまう、なによりも嫌だった。

「……は、い」
「ああ。お前は何も考えなくて良い、俺がお前の手足となり傍に置いておく。……愛しているぞ」

 赤い瞳が、薄黒くなっていくのを、見逃さなかった。

「(逃げられない、)」

 気付いた時には遅かった。






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円様リクエスト、ヤンデレパワハラ風味肋角さんでした。夢主はちょっと気の弱い新米獄卒故に、付け込まれて最終的にはどこにも逃げられなくなりそうですね……。
ヤンデレというと、個人的にはだんだん会話が噛み合っていかないというイメージがほんの少しだけあります。はたしてどうして夢主の肩が赤い事を知っていたのでしょうかねぇ……。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
円様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました。

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