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特務室公認の二人について

「名前、貴女は本当に可愛いな……」

 うっとりと腕の中にいる後輩の髪の毛を撫で付けながら、殺樹は今にも蕩けそうなほどの声色を静かに呟く。彼女の動きに合わせふわりと揺れる金色色の髪の毛と名前の長い黒髪が合わさりなんとも艶めかしい。
 女の子が大好きで男にはさして興味が無い殺樹にとって、同じ特務室に所属する唯一の同性は名前だけである。特務室には件の通り男しかおらず、女子は通常受け入れられれていない。この二人も別々の理由はあれどほぼ男獄卒と同じ働きぶりを見せるので誰も気に留めるものなどはいないのだ。

「殺樹姉さん……み、みんな見てますから……」
「気にするな、どうしても気になると言うのなら私があいつらの目玉を抉り出してこよう」
「もうちょっと穏便な方法でお願いします!」
「いや〜、女の子同士のスキンシップは中々に過激だよね」
「木舌、もしかして二人をツマミにしてるの?」
「……」

 未だ名前を離そうとしない殺樹と、ここが二人きりならともかく他の仲間たちもいる娯楽室だということがどうしても忘れられない名前は羞恥で顔を真っ赤に染めている。そして今日は珍しく全員が非番なので、特務室の仲間たちが皆娯楽室に集まっていた。(普段は皆バラバラでいるためこれは非常に珍しい事態だ)
 テーブルに酒を置き洋酒を仰ぐ木舌に、静かに読書をしていた佐疫はなんとも言えない苦渋の笑みを零す。一方の斬島はキリカさんからお八つとして貰ったおにぎりを食べている。

「いいなー! 殺樹、オレもぎゅーってしてくれよ!」
「後でな」
「そんで、チューもな!」
「なっ、ばっ、ばか! 場所を弁えろ!」
「殺樹が怒った!」
「うるせぇぞお前ら。眠れないだろ」
「相変わらず殺樹姉さんと平腹先輩は仲が良いですね」

 仕事時は女性獄卒でも『先輩』と呼んでいる名前だが、仕事が無い日などは基本的に『姉さん』と呼んでいる彼女に『殺樹姉さん』と改めて言われた殺樹は、最後の仲が良い、という言葉は二の次なのか嬉しさでその黄金色の綺麗な瞳を細め更に強く腕の中で笑顔を見せる名前を強く抱きしめた。
 言い忘れていたが、殺樹と平腹は相思相愛の恋人同士、で、あるはずが如何せん殺樹は恋人よりも同性である名前の方に構っている為かそれが平腹にとっては羨ましいらしい。ソファに横になり今にもうたた寝しそうな田噛が不機嫌そうに睨み付けているのもお構いなしに騒ぎ立てる。

「安心してくれ名前、貴女が居る間は他の男に現を抜かしたりはしないからな」
「殺樹〜、二股は駄目だよ〜」
「木舌うるさい、目玉潰すよ」
「抉るじゃなくて潰すの!?」
「おい貴様等、休みだからと言ってだらけすぎるな」
「まあまあ谷裂先輩もゆっくりしましょう」

 比較的娯楽室は広いがやはりこうも人数が揃っていると狭く感じる。サイドテーブルを囲むように座っている斬島に木舌と佐疫、ソファに寝転がる田噛、壁際に立ちダンベルで鍛錬する谷裂、ローテーブルの前に置いてあるソファに座る殺樹と名前、そして本棚で本を物色している抹本。賑やかなのは一目瞭然だ。
 任務で感じるぴりぴりした空気ではなくゆったりと流れる穏やかな空間に皆が落ち着いているのは確かなことだった。

「全く、せっかく名前と二人で非番を過ごせると思ったのに……。抹本、何とかして」
「うぇっ!? お、俺が……!?」

 流れ弾も良い所だ、自分は町道に使えそうな本を黙って読んでいただけなのに……! なんて、割と本気で追い出せオーラを滲み出している殺樹に対して抹本はおどおどするだけで何も言えなかった。下手なことを言ったら半殺しにされそう。

「殺樹姉さん、平腹先輩にも構ってあげてくださいね」
「む、名前がそう言うなら……。だけど私は今名前といたいんだ、良いかな?」
「もちろんです。殺樹姉さん暖かくて安心しますし」
「……平腹、申し訳ないが私は名前と付き合うことにする」
「ふぉ!?」
「ったく……落ち着いて休日を過ごすことは出来ないのかあいつらは」
「でも楽しいね〜、こうしてみんなで過ごすのは」
「佐疫、おにぎり食うか?」
「俺は良いよ。斬島が全部食べな」
「斬島、俺にも一つ寄越せ」
「ああ、ほら」

 騒がしい流れの中一人でもくもくとおにぎりを食べている斬島。さすがに腹が減ったのか谷裂も斬島達が座っているローテーブルへと近付きキリカさん特製のおにぎりを噛り付いた。

「斬島先輩、夕ご飯のもありますからね」
「あまり食べ過ぎると夕飯食べられなくなるぞ」
「そうだな……善処しよう」
「なー殺樹〜! さっきの言葉って」
「うるさい平腹」
「殺樹ー!」
「平腹黙れ。眠れねぇ」

 並んで座っていた名前と殺樹の後ろに回り込んだ平腹は名前を抱いている殺樹の首元に腕を回し駄々っ子のように騒ぐ平腹を一蹴する殺樹にただただ彼女に抱かれている末っ子は苦笑を零す。

「(殺樹姉さん幸せそう)」

 本当にこの二人は恋人同士なのだろうか、と疑問に思ってしまう事が多々あるが、
どこか楽しそうにしている柔らかい殺樹の平腹は紛れもない、平腹が変えたものだろう。そう考えると、少しだけ嬉しく感じる。そう感じているのは、自分だけではないのは、彼らを見れば一目瞭然だった。

「名前? どうしたの?」
「いいえ、二人とも、幸せそうだなって」
「おう! オレ名前と居る時が一番幸せだ!」
「ひ、平腹! バカ!」
「相変わらず仲良しだね、二人とも」
「あれで仲良しと言えるのか……?」
「色恋沙汰は分からん」
「ま、まあ恋愛は人それぞれだからね……」
「いいツマミだ〜」
「うるせぇ……」

 照れる素振りも無く、満面の笑顔でごちそう様。と言いたくなるように惚気る平腹と、顔を真っ赤にして照れる殺樹、きっと、これからも彼らはこうして皆で集まり、二人を見守るのだろう。

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狐炎様リクエスト、狐炎様宅殺樹さんと夢主のコラボでした。
平腹、と指定を頂いたので勝手に平腹と殺樹さんを恋仲にしてしまいましたがいかがでしたでしょうか。今回夢主には二人を見守る妹ポジションについてもらいました。
少しばかり彼女の口調が合っているか不安なところがありますが、女の子が大好きという設定は以前から認知していたのでそれをふんだんに使わせて頂きました!

お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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