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終わりは見えぬ鬼ごっこ

「名前ー! オレとデートしよう!」
「あ? こいつは今日一日俺と居ることになってんだよ、邪魔すんな」
「(うわぁまた始まってしまいました……)」

 今日こそは、あのコンビに見つかるまいとさながら忍者の如く隠蔽行動をして館に赴いたのに、私の行動は虚しくも偶然居合わせた、見つかりたくないコンビに見つかってしまった。
 私を見るや否や平腹は私の右手を手に取り、一方田噛は左腕を掴んで今にも引っ張り出しそうな勢いだ、挟まれている私などお構いなしに二人は顔を突き合わせ言い合いを始める。

「あ、あの、私今日は仕事がありまして」
「任務!? じゃあオレも一緒にいってやるよ! カレシだもんな!」
「ほざけ。こいつの恋人は俺だ」
「(ひええええ)」

 傍から見れば私が二股? をしている最低女に見られていそうだが断じて違う。私は色恋なんてしたことないしましてや恋仲など居るわけない! なぜか田噛と平腹が私を彼女だと勝手に思い込んで毎日毎日私の奪い合いをしているのだ。色男に奪い合いされて羨ましい! と言われているがやられている側としてかなり迷惑極まりない。
 この状況からどう逃げ切ろうか考えようとしている間、私の両肩からみしりと嫌な音が、待って引っ張らないで私の腕もげる。

「名前は! オレの!」
「ちげぇ。俺のだ」
「ちょ、待っていた、いたたたたた! 腕! 腕もげるから引っ張らないでください! いたたたたたたた!」
「離せよ田噛!」
「てめぇが離せ」

 うわ無視! 彼女だと思ってるなら意見を尊重して欲しいんですけど!? いや付き合ってはいないけど! 日頃から鍛えている彼らと普段は事務仕事に精を出している私の力の差を考えてほしい。彼らが段ボールだとすれば私は発泡スチロールみたいなものだぞ、例えが下手過ぎて伝わらない気がするけども。
 ここが廊下だからか、すれ違う人々が通るたびにこちらを見るが助けてくれそうな気配は全くない。というか「またやってる」という声すら聞こえる。日常茶飯事なためだろう、それに以前仲介に入ってくれた人が返り討ちに遭ったこともあるから余計に……。
 他人に頼ることが出来ない、ならば己の身は己で護る、すうと息を吸いだし、私は両腕に力を込めて声を張り上げた。

「あー! もう! 田噛平腹ストップ!」
「ふぉ!」
「……!」
「先ほども言いましたが私は仕事があるんです、デートもしませんし一日一緒に居ることもないです! というか! 私二人と付き合ってませんから!」
「……」
「……」

 言ってやったぞ、捲し立てるように喋ったからか二人は呆気にとられたように目を丸くさせている。ようやく分かってくれただろうか、苦節何十年、このような争いが続いていたせいでそろそろ私の胃に風穴が出来そうなんですよ。
 一息ついて黙りこくっている二人を見つめていると、なぜか震えていて、……え? もしかして泣いてる? 

「え、あ、平腹? 田噛……?」

 言い過ぎてしまっただろうか、どうしよう、二人に手を伸ばそうとしたが下手に触れるのもアレな気がして行き場の無い手が宙を彷徨う。酷い罪悪感に駆られてしまい、謝罪の言葉を吐き出そうと口を開きかけた瞬間、

「かっわいー! 照れてんのか名前ー!」
「きゃあ!?」
「平腹が居ると本音を出せなかったな。安心しろ、すぐ二人っきりになるから」

 視界が暗くなった。そして降り注ぐ馬鹿でかい声とやけに冷静な声、というか身体に襲い掛かる締め付けはなに、硬い壁に顔を押し付けているのか息が出来ないし。
 降り注いだ声はしっかりと耳に届いたので、自分なりにその言葉を理解するべく暫く硬直し頭の中で考え、要約すると……。

「(こいつら反省してねえ!)」
「ほんと素直じゃねぇよな〜、まあそこがカワイイんだけどな!」
「俺のなんだから当たり前だろう」
「オレの!」

 ここまで来てしまうと、ある意味尊敬してしまう。たぶんこの締め付けは平腹に抱き締められているからだろう。そもそもなんでさっきの発言からあんな結論に行き着く? 考えれば考えるほど頭が痛くなり変に力が抜けてしまいそうだ。

「つうか平腹、いつまでくっついてんだ、離れろ」
「えー」
「……はあぁ……」
「名前? ため息零すと幸せ逃げんぞ!」
「誰のせいだと……」

 ずっと笑顔を崩さずに楽しそうにしている平腹が羨ましい。田噛は田噛で私の服の裾掴んで離そうとしないし、どう逃げ切ろうかなぁ。
 しかし、今更過ぎてアレな気がするがいつから彼らは私と付き合っていると勘違いしてる? そんなような会話したことが無いしそぶりも見せていない。完全に彼らの妄想? 待ってそれはそれで怖い。

「あの、私いつ告白しました……?」
「あ? 俺が付き合えって言ったらはい、って言っただろ」
「オレが好き! って言ったらオマエも好きって言ってたじゃん!」

 真顔で発する言葉をしっかりと受け入れて、処理するのに数秒。

「…………あー……」

 これ私も悪いパターンだ。確かに数十年前、田噛先輩に行き成り「付き合え」と一言だけ言われた覚えある、その時確か私は「はい」と言ったのも覚えてる。だがあれはどこかに一緒に行ってほしいという意味だと思っていたしあれから場所指定されなかったからおかしいなと思ったんだよ。

「(好き、と言ったら私も、好き……うーん)」

 平腹のは、まあうん、正直彼らのことを可愛い弟分半分は兄貴分として見ているからそういう意味で好きと言ったのであって、というかそれで平腹なにも言わず終わったじゃん! それで恋仲になれたと思ってた!? いやいや、落ち着け。これは私も悪い、だいぶ時間は空いてしまったけど、今ここできちんと理由を説明しないと。

「いや、あの田噛のはお出かけに付き合えと思って言ったわけで……」
「……」
「そんで平腹に言ったのは、家族に対する好きという意味で……」
「……んぉ?」

 怖い。この謎の空気が怖すぎて仕方がないんだけど、今ここで逃げてしまったら一生後悔する羽目になる。
 室内なのに氷点下と勘違いしてしまいそうなほど寒気を感じてなぜだか身体も声も震えている、頑張れ、頑張るんだ私。

「だから、今更でほんと申し訳ないんですけど……」

 なにか喋ってよ、いつもみたいに言葉を遮って「デート!」やら「うるせぇ行くぞ」と言って欲しいんだけど!

「二人とお付き合いしているわけでは、ひっ!?」

 最後の言葉を紡ごうとした瞬間、両方の耳から響く謎の爆発音とふわりと髪の毛を揺らす謎の疾風。
 なにがなんだか分からなくて、気が付けば壁に追いやられていたらしく目の前には無表情に私を見下ろす田噛と、口元は笑っているのに目は笑っていない平腹の姿がありまして、ええ、ええ、分かりました謎の疾風と轟音。

「(か、壁が破壊されて……)」

 壁ドンのレベルを超えて、拳で壁を破壊したらしい。一人ならともかく二人同時にやられているから恐ろしい以外の言葉が見当たらない、これは死んだかもしれない。

「今更そんな事言われてもなぁ?」
「……こっちは戻れないくらいお前に本気なんだよ」
「は、はいぃ……」

 地を這う低い声と、覆い被さるように近付く二人の鬼。歯がかちかちと音を立てて震えているし涙が零れ出る。

「安心しろよ! オマエもいつかオレの彼女だって自覚するから!」
「お前は黙って俺だけ見てれば良いんだよ」

 胸きゅんするはずの台詞がなぜか脅しにしか聞こえない。というか口元は笑っているけど平腹目が笑ってないし田噛に至っては今にも喰らい付きそうな勢いなんですけど。
 
「てことで名前、デートしようぜ!」
「部屋行くぞ」
「(いっそのこと殺してくれ)」

 過去の自分をぶん殴りたい。そして可能ならばこの二人もぶん殴りたいがそんな事も出来るはずなく私は天を仰ぎひっそりを涙を零した。

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溶けた氷様リクエスト、平腹と田噛に恋人と勘違いされ取り合いが起こるギャグ夢でした。
コンビの中でもかなり厄介な二人だろうな、と思いました。たぶん思い込みが激しくなって互いの主張は聞いてないだろうし夢主の言うこときっと都合よく解釈してそうです。
ギャグが取り込めているか些か不安ですが、いかがでしたでしょうか。

お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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