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幸福の過剰摂取

ざわざわと人々が行き交う騒々しい街中で恋人を探すため視線を迷わせていたけれど、すぐ傍で嫌でも目に付く人が居た。……いやアレは違うだろう。サングラス付けたり外したりしてこっちをチラチラ見据えているけれども他人だ、……あ、なんか片手上げる。ですよねー、やっぱり貴方でしたか。

「やっと来たかいカラ松ガール」
「ねえその服もうちょっと何とかならなかった?」
「クールな俺にはちょいと地味過ぎたのは分かるぜ、だがお前は控え目な方が好きだろう?」
「日本語が日本語で通じないとかなにこれ」

 物言いたげな顔をしている私を置きよく分からない単語を口にする彼を遮り、明らかに異質な雰囲気を纏っている、否彼の身体を纏っている服に目を向ける。
 異様に光沢がある艶やかな黒いレザージャケットに髑髏柄のスキニージーンズ、そして金色のバックル。どこで売ってるのその服たち。顔はカッコいいのにどこかズレたファッション感覚のせいで残念さが滲み出て隠されていない。どうしよう、このままメンズ服屋に行こうか、と思ったのけれどもやたら服を整えてチラチラこっちを見ているので、今日だけは目を瞑っておこう。

「カラ松」
「なんだいマイスイートハニー」
「えっと、まずはアクセサリー屋さん行きたい」
「ふっ、俺はお前の好きな所で構わないぜ」

 服の話をしても意味無いだろう。決め顔で甘ったるいことを吐くカラ松に苦笑しつつ私は職場の友人が前々から言っていたお手軽な価格で可愛らしいアクセサリーが売られている店へ向かう事にした。休日という事もあってか下手したら飲み込まれそうなほどの人で溢れかえっている街は、正直居心地はあまり良くない。

「人多いねー」
「そうだな、静寂を愛する俺には似合わねぇぜ。……っと名前」
「ん?」

 また痛い言葉を吐いたので無視しようと思ったとき、自分よりも幾分大きいカラ松の手が肩に周りそのまま引き寄せられた。一瞬だけ驚きで肩を揺らしたがその傍を急ぎ足で通る男性が通ったので、反射的にぶつからないように護ってくれたんだ。と悟る。どこか緊張したような表情で私の肩を抱くカラ松の方に顔を持ち上げて、私は笑った。

「有難う。カラ松」
「プリンセスを護るのが騎士の役目だからな」
「王子様じゃなくて?」
「まあ、両方、かな」
「……」

 サングラスを付けたまま遠くを見据えている彼は傍から見たらどこかクールな印象を授けるだけかも知れないが私には分かる、短い髪の毛から見える耳はこれでもかと言うほど朱に染まっており肩に触れる手もじんわりと熱を帯び震えている事くらい。
 数か月前、付き合ってくれ。と小さく今にも消え入りそうな声で言われた時も、初めて手を繋いだ時も、彼の顔はどこか緊張していて耳も赤く熱を孕みその手も震え熱いくらいに熱を持っていたのだ。彼は変わらない、良い意味で、どこまでも可愛い人だ。

「耳、赤いよ」
「名前の魅力に火傷しそうなだけだ」
「それはどーも。あ、ついたよ」
「時を忘れた箱庭、そこに舞い降りし二人の恋人、煌めきを忘れず己の存在を見せつける装飾具達は俺達を縛り付け、」
「カラ松」
「はい」

 器用に決めポーズを決めながら、お得意の痛い発言を繰り返す青い人の名前を、少しだけ低い声で言えば意外と素直に黙り扉を開けてくれた、ほんとこういう時に限って紳士見せるの止めてほしい、童貞のくせに、童貞のくせに!

「名前? 入らないのか?」
「あ、ううんごめん。入る入る」

 余計な考えは頭を振ることで全て捨てて、私はひんやり冷房の効いたアクセサリー屋さんへと足を踏み入れる。色とりどりのアクセサリーが並び照明の光も相まって少しだけ眩しいけど、綺麗だ。高級そうなものからアンティークのようにシンプルなものまで並んでいる、お金の問題であんまり高いものは買えないけど常日頃頑張っている自分のご褒美として一個くらい良いよね。

「わーい、ネックレスとブレスレットどっちにしようかなぁ」
「ハニー、これなんかどうだ?」
「(ハニー?)……え、いや、それは……」

 あまりに自然なハニー呼びに今更驚いてしまった、悪い気はしないから敢えて突っ込まずにカラ松がおすすめしているアクセサリーに目を向ければ、銀色のチェーンに繋がれた、大きな十字架の真ん中にドクロマークがついていた。正直言って、とてもださい、というかこんなおしゃれなお店になんでこんなのがあるんだ、と疑問に思ってしまうほどださい。

「俺的には中々だと思うんだが……」
「ま、まあ感性は人それぞれだからね、良いんじゃないかな?」
「そ、そうか? じゃあ買おうかな……」

 なにが恥ずかしいのか少しだけ照れて頬をかく恋人さん。というかお値段結構するけど大丈夫なのかな、カラ松、というか彼らの兄弟全員無職なんだよね、いい年なんだから働きなよと思いながらも関係を続けている私もあれだけど。
 嬉しそうにネックレスを四方八方から見つめているカラ松に少しだけ笑みを零しつつ、店内をゆっくり回っているとあるエンゲージリングが目に映りこんだ。

「はぁー……綺麗」

 ショーケースの中で光り輝いている指輪、真ん中に小ぶりのサファイアが埋め込まれた指輪だ。濃い青、というよりかは少し透明がかっていて角度を変えて見れば水色になったり青色になったりと、見方によって色を変えるそれは、魅入られるには十分過ぎた。

「一、二、三、四、五、ろ……おぉ、お値段も中々」

 そうだろうな、とは思っていたが中々に痛い値段だ。だが、確かにその値段くらいの価値はあると思うほど素敵なものだ。

「ハニー?」
「あ、ご、ごめんなんでもな」
「如何ですか? こちらのエンゲージリング、角度によって色が変わるもので今若いお客様の間で人気なんですよ」
「エンゲージリング?」

 ああ、ややこしくなってきた。いつの間にかショーケースに張り付いていた私に気付いたのか、カラ松が肩の上から覗き込むように見てきて、驚いて離れようとしたのだが店員さんが話しかけてきた、いかにも結婚を意識しているようで恥ずかしい。
 カラ松も指輪を一瞥したあと、なんとも言えぬ顔で黙り込んでしまい、いたたまれなくなった私は曖昧な笑顔でその場をしのぐ。

「そ、そうですね。カラ松、時間無いから行こう」
「先に外で待っててくれ、俺はこれを買ってくから」
「え、じゃあ私も一緒に」
「大丈夫だ」

 無理矢理押し出される形で、店の外に出てきてしまった。外の空気を吸った瞬間、はぁぁと重たいため息を吐き出し頭を抱える。やってしまった、確かに結婚はなんとなく意識はしているが今付き合っている相手はいつ就職をするかも分からない無職ニートだ、何回も仕事してみたらー? と話を振ってものらりくらりと交わされていたのに行き成り結婚という単語がもろ入っている話題に触れてしまったら、絶対重い女だと思われる、いや、もう思われているだろう。

「(どう話題を変えようかなぁ……)」
「待たせたなハニー」
「お帰りー」
「それで、だ、少し場所を移動しよう」
「え?」

 小さな紙袋を持ったまま、カラ松は私の手を引いてある場所へと向かった。



「ここなら大丈夫か」
「カラ松? どうしたの?」

 連れてこられた先はよくデートなどで向かう噴水がある公園。今日は珍しくあまり人が居なく静かだ、どうして行き成りこんな場所へ来たのか分からなくてただただ頭を捻らせていると、カラ松がこちらを振り返り、息が止まる。

「カラ、松……?」

 今まで見たことがないほど、真剣な表情で、こんなカラ松見たことがない。どうしよう、今ので別れ話だったら、どう、しよう。
 怖くなって、カラ松の射抜くような視線に耐えきれなくて俯けば、優しく頭を撫でられ、

「名前」

 優しい声色、暖かくて大きい手、嫌だ、別れたくない。ニートでも、童貞でも、頭カラっぽでも、痛くても、カラ松が大好きだから、

「俺の金、……違うな、今は親からの金で買ったものだけど、受け取ってくれ」
「……っ」

 右手を引かれ、薬指にはめられたのはアンティークで小さなガラスが埋め込まれた指輪だった。青いガラス玉は陽の光で輝き指輪は私の指にぴったりと収まっている。
 いきなりの展開で訳が分からずただ呆然としていると、申し訳なさそうに眉を下げカラ松はぼそぼそと喋り出した。

「名前だって女の子で、結婚したいよな……今までそんな素振りを見せなかったら良いかと思っていたけど……指輪を見つめる姿を見たら、その……」
「……」
「すぐには無理だと思うけど、職を探すから。そんで、出来るだけ早くお金を貯めて、名前が欲しい指輪を買って、そのこっちの指にはめて、…………プ……ズ、するから」

 最後の方は恥ずかしいのか、聞き取れなかったけれど、なにを言いたいのかすぐに分かった。
 自分自身のことしか考えていないと思っていたのに、そこまで考えていてくれたカラ松が愛らしく、可愛くて私は別れ話を切り出されたわけでも無いのに涙が溢れそうになっている、おかしい話だ。

「わ!? 名前?」
「っ、ありがとう。いつだって、応援してるし背中を押すから……!」
「……有難う」

 人目もはばからず逞しい身体に抱き着いた。紳士的で、誰よりも優しくて弱くて、服のセンスも、いざという時に尻すぼみしちゃう貴方が世界一大好き。
 そしてすぐ離れたかと思えば、カラ松はその場に跪いて、私の両手を手に取る。

「……名前、大好き、です。一生守るから」
「はは、気が早いよ……。けど、私も、カラ松のこと大好きだし、守るからね」
「うんっ……」

 何故か涙目になっているカラ松がおかしくて、笑顔が零れ出る。
照れくさそうに笑ったカラ松が、まだ何も嵌められていない薬指に口づけた、ちゃんとしたプロポーズもなんもされてないのに、嬉しくておかしくなりそうだ。
 
「幸せすぎて、泣きそうだよ」
「次は、嬉し泣きだな」

 今日起こったこの瞬間を、感動を、いつか近い未来また味わったときは、きっと不細工な顔をして泣く私がいるはずだ。けど、きっとそんな私を今みたいな泣き笑顔で優しく抱きしめてくれる彼がいるから、今だけは我慢しよう。

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スクフレ様リクエスト、カラ松と甘夢でした。
いざという時は静かになってへたれ気味のカラ松が大好きです。あとおもちゃの指輪を渡していつかこっちに本物を、みたいな展開も大好きなので一気に詰め込みました。
カラ松はある程度お付き合いを経過させたらすごく紳士的になる気がします。

お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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