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結局最後はハッピーエンド

「木舌〜、ちょっと愚痴聞いてくれない?」
「え?」

 一人食堂で晩酌をしている時に、谷裂の恋人である名前がやって来た。おれの隣に来るなり音を立てて座ったかと思ったらこんな事を吐き捨てて思わず変な声を出してしまう。その後の言葉が見つからなくて呆然としていると、名前は俺の手からコップを取り上げて結構中身が入っていた酒を飲み干す。ああ俺のお酒が。

「あの頑固者、アタシが好きとか大好きって言うと目線も合わせず「そうか」って言うだけなんだよ」
「ぷっ、声真似上手いね」
「でしょ!? 持ちネタなのよ〜……って違う!」

 バンと机を叩かれた。やばい、彼女を怒らせると怖いんだった。あのストイックかつかなりの頑固者で、獄卒の中で最も鬼らしいと評されている谷裂と付き合う時点で愛情表現については想定済みだと思っていたけどここまで長く続くとさすがに本人も堪える、ということらしい。名前は机に突っ伏したまま言葉を紡ぐ。

「なんかさ、手を繋ぐことすらしてないと本当に彼女なのか不安になるのよね」
「手!? まだ繋いでないの?」
「うん。アタシが手に触れるとすぐに叩かれるし」

 はあああと長く重たいため息を零して名前はコップに酒を注いでまた一気に飲む。飲んでないとやっていられないのだろうか。けど、さすがにもう長い間付き合っているにも関わらず手すら繋いでないというのはさすがに同情する。かける言葉が見つからないままでいると名前は顔を上げてうっすら目に涙を滲ませる、こっちまで泣けてきそう。

「あーぁ……ほんとに愛されてるのかな」
「そこは自信持って良いと思うけど」
「そうかしら」
「だって任務の時護ってくれるじゃん」
「それが愛情表現?」
「谷裂にはそれが限界なんじゃないかなぁ」

 そう言うと名前はふっと息をついて遠くを見る。まあ同情とかはするけど、谷裂はちゃんと名前の事は好きだと思う。任務の時自分が一緒じゃなかったらわざわざそれっぽい理由を付けて一緒に組んだりしているし、この前なんか久々に出掛けるからどこか良い場所教えろみたいな事を相談してきたし、あれ結構ラブラブじゃない? 名前が気付いてないだけで。

「今晩部屋にお邪魔しようと思ったけど、止めておこうかな」
「なんで?」
「なーんか辛気臭くなっちゃった」
「(あ)」

 酒を一気に煽る名前に視線を注いだ後、ふっと人の気配がしたので食堂の入り口に目を向けると誰かの人影。もしかして、アレって、

「ま、今度酒の席で愚痴ってみるわ。聞いてくれてありがと」
「……その機会は、今かもね」
「は?」
「名前」

 席を立った名前が、声と人の気配に気付いて身体を跳ねる。後ろからは妙に不機嫌そうな声と表情をしている、さっきの愚痴の張本人。
名前も振り向いた瞬間に目を見開いてそのままかたまってしまった。

「た、谷裂」
「こんな夜中に何をしている」
「え、いやぁちょっと愚痴を聞いて貰っていて、ね?」
「……」
「あー、もうごめんって。約束破ったのは悪かったわよ」
「約束?」

 今にも怒りだしそうな谷裂に、申し訳なさそうな表情の名前、なんだか空気的におれ居る意味なくねと思いながらも名前が吐いた言葉が気になったので思わず聞き返す。

「男性獄卒のいる屋敷ではあまり一人でうろつくなって言われてたの」
「名前を一人にしておくと危なっかしいからだ」
「子ども扱いして、失礼しちゃうわほんと」
「……」

 え、待って、それって完全に愛されてるじゃん。というか今不機嫌な理由って多分やきもちだよね。なんだこれ。おれに相談するまでも無いよ。きっと、いや絶対谷裂はかなり不器用なだけだよ、気付いてあげて名前。

「だいたいお前はもう少し自覚を持て」
「自覚って何よ、なにかあったかしら?」

 唇を尖らせる名前。谷裂ももう少し分かりやすく言ってあげれば良いのに、そしたら絶対喜ばれるはずだ。いや、けれども谷裂自信もきっと言葉にしたいけど出来ないのだろう、恋愛面に至ってはかなり不器用だもんね。名前が発した言葉に返す言葉が見つからないらしく少しだけ難しそうな表情をして黙っている。

「……」
「ま、とにかく帰るわ。木舌ありがとね」
「う、うん」
「待て」

 帰ろうとした名前の手を谷裂がすかさず掴む。いきなりの行動できょとんとした表情の名前、おれもつられてきょとんとする。
暫く二人で谷裂を見つめていると、谷裂は徐々に顔を真っ赤にしてぽつりぽつりと言葉を洩らした。

「ひ、一人だと危ないだろう。……泊まっていけ」
「え……」

 谷裂が、デレた。多分おれと名前の思っていた言葉が同じだと思う。沈黙の間に谷裂の顔は真っ赤に染まり耳から煙が出そうなほどだった。
名前も漸く言葉の意味を理解したらしくほんのり顔を赤らめたと思ったら嬉しそうに顔を緩めて谷裂に抱き付いた。

「そうね、せっかくだから泊まらせてもらうわ」
「な、は、離れろ馬鹿!」
「良いじゃない気にしないの!」
「……っ」

 恥ずかしそうにしながらも谷裂は震える手で名前の背中に手を回した。イチャついている二人を近くで見ているおれ、居たたまれない。完全に二人の世界に入ってるよねコレ。

「えっと、おれもう帰るねー」
「谷裂もデレることが出来るのね! 安心したわ!」
「だ、黙れ! さっさと帰るぞ!」
「じゃあね木舌ー!」

 引き摺る形で名前と谷裂は食堂を後にしていった。取り残されたおれは、何となく虚しい気持ちでいっぱいだった。
はたして頬から流れる涙は一体なんなのだろうか。






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海老カツ様リクエスト、ギリデレな谷裂と不憫な木舌です。姉御肌な夢主にしてみましたがはたして……多分夢主は木舌さんとは飲み仲間かと思います。甘く出来たか凄く不安ですが……!
谷裂がギリデレは難しいですね、とにかく木舌さんはかわいそうなくらい不憫になってしまいました、けど楽しかったです。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
海老カツ様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました

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