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「#幼馴染」のBL小説を読む
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いつでも安らげるのは貴方の傍

「その傷が治るまでは任務に出るなとのことだ」
「あー……分かった。早く治ると良いんだけど……」
「ふん、油断したお前が悪い」
「……ごもっともです」

 ベッドで横になっている私の投げ出した腕を取り、丁寧に包帯を巻きながら谷裂は呆れたように言葉を紡いだ。久々に任務でやらかしてしまった。恋人である谷裂と一緒に課せられた任務は現世と獄都の狭間の空間に鎮座し人々を異世界へ連れ込み悪戯をする怪異の討伐任務、そこまで強い怪異では無かったし任務中は基本魑魅魍魎を倒すことが多い谷裂も一緒だから大丈夫だろうと思い二人だけでの任務だったのがだ私が油断して怪異に取り込まれた瞬間に腕に深い傷を負いそこから怪異の毒が回って再生機能が大幅に遅れるというとんでもない呪いに掛かってしまったのだ。
 身体の部位破損はしていないけれども身体中の擦り傷が全く持って治らなく身体能力も一気に低下してしまったので怪異を倒した後は谷裂に背負われる形で屋敷に戻ったのだ。その時の私の体力はかなり消耗しており医務室で寝かされている間に谷裂が肋角さんに全てを報告したらしい。それは全て今日の出来事であり医務室から迎えに来た谷裂の手により私はなぜか彼の部屋に連れ込まれた、ここだけは本当に謎。まあ女子屋敷へ行く距離を考えればこっちの方が良いのかも知れないな、うん。

「お前を抱えてそっちの部屋に行く手間を省くため暫くはこっちで生活しろ」
「けど、邪魔じゃない?」
「邪魔だったらお前の部屋まで運んでいる」
「……!」
「にやにやするな!」

 いきなり発せられた谷裂なりの素直な言葉に思わず目を見張ったけれどもすぐに嬉しさに変わってしまい私の口角はゆるゆるとつり上がりつり上がった唇の隙間から「ふふっ」なんて言葉が掠れたように零れ出た。その言葉と、私の表情をその紫色に取り入れた谷裂は面白いくらいに顔や耳を真っ赤にさせて怒鳴ったけれども顔色の悪い私を見て今の状態を察したのかすぐに視線を落として介抱に専念してしまった、付き合うようになってから、少しだけ谷裂は素直になるという言葉を覚えたらしい。それは普通の人たちに対するものでもあるけれども、恋人、相思相愛の相手に対する扱いや言動も少しだけ柔らかくなっている。現に私を獄都へ連れて帰るときも、昔ならどんなに大怪我でも気にせず肩とかに乱暴に担いだり最悪首根っこ捕まえて引き摺られることが多かったのだが恋仲になってからはきちんと背負ったり極稀に横抱きにしてくれる時ある、うーんこう考えると随分変わったなぁ谷裂。包帯により白くなっていく腕に目をやりながら見ていると、段々目の前がぐらりと霞んで瞼が急激に重くなって来た、……あれ、

「……」
「名前?」
「……な、に?」
「顔色が悪いぞ。眠いのか」
「なんか分からないんだよねー……急に瞼重くなった」
「呪いが進行しているのか、体内の細胞が消そうとしているのか、どちらかだろうな」
「ん」
「さっさと寝ろ、そして早く治せ」

 ぱちぱちと細かい瞬きを繰り返す私の目の前にその大きな暖かい掌を乗せて谷裂は先ほどの大きな声とは違い囁くようなどこか心地良い声色で言葉を投げ掛けてきて、それが子守り歌のように私の耳朶を揺らすものだから身体が布団の中に沈みこむような感覚が体内を巡り始めた。いつの間にか包帯を巻き終えたらしく谷裂は部屋の電気を消すために私の視界から消えてしまった、そして明るかった部屋が暗くなり重たい顔を動かして谷裂の方を見ればどこかへ行こうと準備をしている。

「たに、ざき」
「なんだ」
「どこ行くの」
「道場だ。俺が居ては寝られないだろう」
「……居て、欲しい……」
「は?」
「……傍、居て」

 身体中に力が出なくて言葉も途絶え途絶え気味になってしまっているけれども声量は出ているはずだ、現に私が発した言葉に谷裂は驚いているのか暗闇の中で浮かび上がる紫色の瞳は何時に無く大きく見開かれている。
その紫を見た瞬間、私は後悔の念に苛まれ苦渋の表情を零した。あの頑固者でストイック、プライドが高い谷裂に甘えたって意味が無い、きっと呆れたように「くだらない」という冷徹染みた言葉を吐かれ私の甘えなんて無かったにされてしまうだろう。安易に想像出来る事態が一瞬にして脳内に組み込まれ私はふっと息を吐いて身体に掛けてあるタオルケットを顔全体まで引っ張りすぐさま谷裂の視線から逃れるように背中を向けて丸まった。

「……ごめん、なんでもない」
「名前」
「気にしないで、鍛錬頑張ってね」
「待て、話を聞け」
「眠いの。……おやす、」
「人の話を聞けと言っているだろう阿呆が」
「え?」

 言った言葉を反芻すれば急激に恥ずかしさがこみ上げて谷裂のニオイが染み付いたベッドに顔を埋めるように沈み込ませて半ば投げやりに言葉を吐き出していれば、私の身体を覆っていたタオルケットが宙を舞い、その隙に谷裂がベッドに潜り込んできた。何が起きたのか分からなくてただただ困惑していると私の身体は壁側に寄せられ谷裂が私の身体を包むように腕を背中に回した。
部屋にあるベッドは壁側に設置されており、背中には少しだけひんやりとした壁の感触が伝わったが身体を冷やさせまいと言いたいのか背中に回った谷裂の手により彼の鍛えられた胸板に誘導される。

「ん? んん……!?」
「体調が悪い時は精神面も辛くなるのは分かる。起きるまでこうしてやるからさっさと寝ろ」
「た、谷裂……!」
「……」

 暗くて見えないけど、私をしっかりと抱き締めている谷裂の身体は先ほどよりも強く熱を帯びているので照れているのは分かる。予想外の自体に混乱して頭が付いていかなかったけれどもそれよりも嬉しさが募り上げて私は固い谷裂の背中に包帯が巻かれている腕を通して胸板に額を押し付ける形で抱き付いた。タンクトップ越しに伝わる熱と、静かに聞こえる心音の音は心地良く揺らいでいた私の意識はすぐに途切れてしまいそうなところまで来ている。遮るものも無いし、谷裂に甘えて眠りに落ちようと瞼を閉じて身体の力を抜いた瞬間、

「いっ……!」

 思わず声が洩れた、なぜなら、脱力し眠りの世界に入ろうとした瞬間に鈍器で殴られたかのような衝撃が頭の中に走った。その声を聞き入れた谷裂は驚きで少しだけ身体を強張らせるとすぐに私の顔を覗きこんだ。

「……! どこか痛むのか」
「わ、分からない。……意識飛びそうになった瞬間頭痛くなって……」
「……中々に厄介だな」
「まあこのくらいの痛みなら平気」
「変なところで見栄を張るな。辛いなら辛いと言え」

 甘えられる関係だろう。と最後は消え入りそうな声で呟かれた言葉は静かな部屋の中に木魂し、緩やかに溶けていく中で私の耳の中へ入り込んだ。普段とは違う彼の態度にただただ混乱しか出来ないけれどもその言葉が嬉しくなり、思わず涙が滲み出そうになった。暗闇に慣れた目で顔を上げれば鉄面皮の谷裂の瞳は優しく細められており言葉の変わりに優しく頭を髪の毛を梳かれる。
 甘えたい、こうした時に甘えられる関係だと改めて痛感して私はソッと言葉を吐き出した。

「あ、頭」
「どうして欲しい」
「な、撫でて……ここ」
「痛みが緩和するのか」
「気の持ちようで何とかなるはず」
「……他にもして欲しいものがあったらすぐに言え」
 
 頭に回っていた手に自分の手を添えて、先ほど衝撃が走った場所に誘導させれば谷裂はぎこちなくもゆっくりと優しい手つきで私の髪の毛に指を通し撫でていく。時折、こうして頭に手をポンと置かれることはあるけれども撫でられたことは殆ど無い、どこか乱暴だけれども大切さが込められているような手の感覚は呪いをすぐに溶かしてくれそうなほど心地良く私の意識はまた別世界へと誘っていく。先ほどの痛みなんか無かったかのようにも感じられ私は再び目を瞑り眠りの世界へ入ろうとしたが、やはりまた何かで殴られたかのような衝撃が走り出した、けれども、先ほどに比べて大分間隔は薄い。これなら、多分眠れる。

「っ……!」
「名前、頭をあげろ」
「……?」
「人との接触で症状が和らぐ場合もあると肋角さんが言っていた」

 痛みが揺れ動く中、言われた通り頭を上げれば谷裂の片腕が私の頭の下を通りベッドに沈んだ。頭を起こしても尚撫でてくれる谷裂に軽く引っ張られ私は谷裂の腕の上に静かに頭を乗せた、枕とは違いぴったり来る高さ、少しだけ硬いけれども私が好きな谷裂のニオイや温度が、抱き締められている身体も含めて全身から伝わっているようで酷く安心する場所に居るようだった。

「……」
「出来るものなら変わってやりたい。……だがそんな事は出来ない、俺が出来る限りのことをやるから遠慮無く言え」
「ありがと……。なんか谷裂今日優しい」
「好いている女が苦しんでいるのを冷たく見放せるほど俺は出来ていない」
「……谷裂好き」
「……」

 思わず目頭が熱くなって、身体の傷が痛むのを我慢して目一杯谷裂の身体を抱き締める、正確には抱き付けば下敷きにしていた腕が伸びて頭を包まれる。私をずっと撫でていた手は背中に移動して私の抱擁に答えるように谷裂もしっかりと私の身体を抱き締めてくれた、ほんと、これがあの谷裂なのだろうか疑いたくなるほどだけれども正真正銘目の前に居る男は私が好きになった谷裂だ。眠たい感覚もいつの間にか消え失せ身体の至る所から感じていた痛みも何時しか感覚がほぼ無くなっていた、多分時間が経ったのか若しくは肋角さんの言うとおりこうして谷裂と触れ合っていたから呪いが無くなりつつあるのだろうか。

「名前、一つだけ言っておく」
「なに……?」
「何かあれば我慢なんかせずに言え。確かに勘違いさせるような表情や行動をしてしまうかも知れない、だが俺が出来うる限りの事は必ず答える」
「谷裂、もしかして酔ってる?」
「貴様殴るぞ」
「ごめんなさい」

 思わず思っていた言葉が口から零れ出てしまった、そのせいで背中や頭に添えられていた手に変に力が篭りどこか低い谷裂の声が私に降りかかったので反射的に謝罪の言葉を吐き出した。うん、やっぱりいつも通りの谷裂だ。甘えさせてもらうことが殆ど無いから疑心暗鬼気味になってしまうんですよ。

「あ、けど痛みがだいぶ無くなったよ」
「傷も治りつつあるか」
「うん」

 確認するように谷裂の手が私の背中を撫でるように這っていったので少しだけくすぐったさに身を捩るも返事をすればホッと谷裂がため息のような安堵の息を零した。
これなら寝なくても大丈夫そうかな、後数時間経てばきっと傷も治るだろうし。背中に回していた腕をどかし谷裂の身体から少しだけ引くように胸板に手を添えて顔を上げる。その私の行動に少しだけ驚いた谷裂は何も言わずに紫色の視線だけで何かを語っているかのようなので私はすぐに口を開いた。

「もう多分大丈夫だと思う。呼び止めてごめんね」
「……」
「後は一人でも、っ」

 頬を掴まれて言葉に詰まった瞬間唇に生暖かい少しだけかさ付いた何かが触れた。暗がりの中でも分かるくらい近い距離だったので私はすぐにキスをされていると悟り、それと同時に行き成りなされた行動に驚きを隠せなかった。

「ん……!?」

 唇と唇をくっ付けるだけの子ども染みたキスだったけれども、最後に谷裂の生ぬるい舌が私の唇を舐め上げたので思わず変な声が出て身体がピクリと跳ねた。逃げられないように身体をがっしりホールドされて、上り詰めた熱と五月蝿いくらい鳴り響く心臓の音だけが部屋の中に木魂しているような気がして死にそうだった。少しだけ荒い呼吸が流れ呆然とキスをして来た張本人を眺めれば恥ずかしいのか照れ隠しなのか頭を引き寄せられ私の顔は谷裂の胸板に押し付けられた。

「え、え、ええええええ……!?」
「中途半端な状態で鍛錬へ行けるか。お前も疲れているだろうから寝てしまえ」
「けど、……」
「俺がこうしたいと言わなければ分からないのか阿呆め」
「え!?」

 先ほどよりも強い心臓の音が鼓膜を揺らして私の顔にも熱が溜まった。というか思わず大声で叫んでしまったけど、夢でも見ているんじゃないかな。顔を上げて谷裂の顔を見ようと思ったけれどもそれは谷裂の手によって遮られて顔を上げられない。多分顔を見られたくないのだろう、抱き締められている時も谷裂はよくこうやって自分の顔を見せようとしないし。

「えっと……じゃあ谷裂、……起きるまで傍に居て、くれる?」
「当たり前だ。さっさと寝てさっさと回復しろ」
「……はーい」

 本当は、もう痛みなんて無いのだけれど可愛いくらい不器用な素直さを出してくれた谷裂が堪らなく愛おしくなって私は笑いながら再び彼の大きな背中に腕を回した。






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東雲様リクエスト、谷裂で甘夢でした。
好きな人が苦しんでいる姿は見てて辛いですよね、谷裂もなんやかんや夢主が心配で労わっているシーンを書きたかったので書いてみたのですが……はたして甘く出来ているか些か不安です。
谷裂はきっと好きな人にはなんやかんやちゃんと甘やかしてくれそうです、というかしてほしい。そして谷裂に添い寝して欲しい。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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