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酒は飲んでも飲まれるな

 木舌先輩が飲みに誘ってくれたから仕事終わりそのまま指定された居酒屋に行ったら、珍しくほろ酔い気味の谷裂先輩と呑み続ける木舌先輩、周りには酔い潰れている先輩達。何だコレ、地獄絵図。
 因みに今回の居酒屋は個室制らしく、騒いでも問題は無いらしいけど、本当になんだこの状況。

「……遅くなりました」
「もーほんと遅いよ名前〜」
「というか遅れたの三十分くらいだと思ったんですけど、どういうことですか」
「……コイツが五十度の酒を頼んで飲ませたからだ」
「五十度!? 初っ端から何やってるんですか!」
「てへぺろ」

 ああダメだこの酔っ払い。手遅れだ。いっそ目玉抉ってやろうか、ピキリと右手の指が動いたがこの人たちを一人で介抱しなければいけないのは凄くめんどくさいので無視しよう、座敷に足を乗せてどこに座ろうか周りを見回した時に木舌先輩が声を上げた。

「名前、こっちこっち!」
「木舌の隣に座ると絡まれるぞ、こっちに来い」
「えっと、」
「谷裂も酔ってるから危険だよ! どうせならこっちおいで!」

 谷裂先輩が妙に優しい、酔ってるからなのかな。膝をポンポン叩いて嬉々とした目で私を見る木舌先輩に苦笑を零す。まあ間を取って二人の間に座らせて貰おうかな、なんて考えが二人に見透かされたらしく、丁寧に間を空けてくれた。有り難い。

「谷裂先輩ちょっと酔ってます?」
「いきなりあんなの飲んだら少しは酔うだろう」
「けどちゃんとセーブしてるから谷裂泥酔してないよ!」
「元はと言えば貴様のせいだろう!」
「きゃーこわーい!」
「名前、なにを飲む」
「……柚子割にしようかな」
「え、ジュースじゃん! どうせならコレとかどう?」
「見るからに度数高いじゃないですか! 酔いたくないんで甘いのでいきます」

 呼び出し機で店員さんを呼んでお酒を頼めば木舌さんも同じように焼酎を頼んでいる。え、どんだけ飲むのこの人。

「木舌が飲むと、飲み放題じゃないと破産するな」
「確かにそうですね」
「ほらほら、これ美味しいよあ〜ん」

 ぐいぐいおつまみを口元に運ぶ木舌先輩を適当に宥める。この中でまともに会話出来るのが谷裂先輩しかいないって、ちょっと身を乗り出して倒れている先輩達を一瞥すれば、目を開けたまま寝ている斬島先輩と、熟睡している佐疫先輩、田噛先輩、平腹先輩に至っては座敷から外にはみ出してる。

「五十度の奴、何杯飲んだんですか?」
「斬島は一杯、佐疫は三杯、田噛と平腹は二杯でギプアップ」
「うわあ」
「柚子来たよー」

 うーん、ちょっと飲んでみたいかも。言わないけど、小腹がすいているのでテーブルに並べてあるおつまみを適当に食べて、木舌先輩から受け取った柚子割を口に含めば甘さと美味しさで笑みが零れる。仕事終わりのお酒って美味しい。

「ん〜……美味しいですね」
「美味しそうに飲むね〜、おれにもちょっとちょうだい」
「え」

 グラスを持っていた手の上から手が重ねられて木舌先輩は目を伏せてお酒に口をつけた。うはあああ近い近い近い! 酔いが回ってないのに身体が熱くなって顔に熱が溜まる。チラッと谷裂先輩を見れば、なぜか不機嫌そうに顔を顰めて睨んでいるし、いや、助けて下さい。
 一方柚子割を飲んだ木舌先輩は「甘っ」と呟いて表情を崩した。

「うへぇ……やっぱりジュースだよコレ」
「なにをやっているんだ木舌」
「ま、まあまあ」
「……む。名前」
「はい?」
「付いている」

 何がですか、と言い終える前に谷裂先輩の顔が間近に来て頬に付いていたと言われていた何かが彼の熱い舌で絡め取られた。予測不能の自体に呆然としていれば、これでもかというほど顔を真っ赤にして口元を拭っている先輩。あれ、え? 舐められた?

「あー谷裂ずるい!」
「うるさい。貴様だって酒を飲んだだろ」
「間接チューはしたけど、舐めるのずるい!」
「黙って飲んでろ」
「……」

 ぐるぐると色んなものが混乱していて、纏められない。分かるのは二人共悪酔いしていて私をからかっている事、これは、早急に退散した方が良いかも知れない。

「ねえ名前」
「な、なんです、んっ」

 再びグラスに口をつけようとしたときに名前を呼ばれたので振り返れば息がかかるほど木舌先輩の顔が近くて、驚きで声を出す前に先輩の舌が私の耳朶に触れた。ぞわぁっと背筋から何かが走って、危うくグラスを床に落としそうになる。

「な、なんですかっ、え?」
「名前良い匂い〜……美味しそう」
「ひっ!?」

 耳朶を舐められ、甘噛みされる。予想外の行動に声を零せば、ふわりと身体が浮いてさっきよりも視界が高くなった。ぱちくりと私、というか私の後ろを見ている木舌先輩につられて後ろを見れば、真っ赤な顔の谷裂先輩。

「おい木舌、いい加減にしろ」
「え、あれ、」

 下を見れば胡坐をかいている谷裂先輩の足が見える。えっと、つまりは胡坐をかいた上に座らせている? 普段しないだろう行動を平然とやってのける谷裂先輩に目を見張ってしまう、この人見た目では分からないけど結構酔ってるな。ただじっと大人しくしていれば木舌先輩が唇を尖らせる。

「谷裂ばっかりずるいじゃん〜」
「貴様は悪ふざけが過ぎる」
「じゃあ、仲良く半分こしよう?」
「は、半分こ?」
「……仕方ない」
「え!?」

 仕方ないってなに!? 普段なら怒鳴るでしょ谷裂先輩! 二人を止めようと手を上げればがっちりと双方に掴まれて、右側にいる木舌先輩は私の耳元に、私を乗せている谷裂先輩は首筋に噛みついてきた。
ぞわぁぁぁぁぁと変なものが背中を走って思わず身体が跳ねる。

「あ、うっ」
「名前良い匂いする〜」
「……咽そうだ」
「ちょ、二人共っ……んっ」

 待ってください、と言う暇もなく木舌先輩はわざとなのか音を立てて耳を舐めてくるし、谷裂先輩も負けじと首筋に舌を這わせてくる。双方の刺激が一気に身体に来て息が乱れるし変な声が出る、なにこれ、お酒、酔ってないのに、妙にふわふわして変な感覚。

「ふっ、あっ」
「……名前って、可愛い声出すね」
「痛くはないか」
「な、いけどっ……んっ」

 ぞくぞくして、身体が捩れるけど両手をがっしり掴まれているから逃げられない。谷裂先輩の上に座っているからバランスを取るのに精一杯だし、逆にバランスを保とうとすれば双方から与えられる謎の刺激で声が我慢出来ない。私の震える身体なんか気にせずに二人は止める気配なんてないし、というか下手に変な声出したら私の何かが壊れそうで出せない。

「や、やだっ……んんっ」
「……おい、あまり変な声を出すな」
「おれ達だって男だもんね〜」

 だったら身体舐めるの止めろと言いたいけど、声が震えて変な声しか出ない。ああいつもならあまり酔わないようにしている佐疫先輩とかがいるからこんな事なんて無かったのに。
 ぞくぞくする感覚の中でどうする事も出来ないでいると、後ろから谷裂先輩の大きな手が私の軍服のボタンを外し始めた。

「ちょ、谷裂先輩!?」
「黙ってろ」
「いやいやいや、さすがに、ひゃあっ!?」
「まあまあ、良いじゃない」

 言葉を出し終える前に耳元で木舌先輩が息を吐いた。突然の出来事で思わず甲高い声を出せばニヤニヤしている木舌先輩と未だにボタンを外し続ける谷裂先輩、ある程度ボタンが外れた時に、見計らった木舌先輩が服の中に手を入れた。

「おぉ、柔らかい」
「おい木舌貴様、」
「ひっ、や、だっ……」

 ほんとなにこの二人、いつもの先輩達がじゃない、お酒って怖い。というかどうやって逃げだそう、変な刺激と混乱で頭の中ぐちゃぐちゃになってるし。谷裂先輩は何故だか舌打ちをして私の内ももを撫でてくるし。

「名前、どうした」
「変な気分になった〜?」
「ち、がっ」

 手の動きを止めないで気を抜けば首とか耳を舐めてくるこの酔っ払い二人をどうすれば良い、急に恐怖心が募って涙が零れそうになる。と同時に身体も震えて力が抜けそうになった瞬間、

「いっ!?」
「ぐっ……!」
「え」

 鈍い音が頭上に響いて二人の短い悲鳴が聞こえた。え、なに、と思った矢先に掴まれていた両手が解放されて力が入りきっていない私は前に倒れる、ことは無かった。するりと後ろから手を回されて身体を支えられ暖かい人肌。誰か、いる、乱れた息のまま後ろを振り向けば見慣れた顔が見えて我慢していた涙が一気に溢れ出た。

「ろっ、かくさん……!」
「大丈夫か名前。……ったくこの酔っ払い共が」

 私達の上司、肋角さんだった。未だに谷裂先輩の膝の上だったのに気付いた肋角さんは身体を支えた状態で私を持ち上げて場所を移動させると、彼は目の前に座り込んだ。さっきまでセクハラをしていた二人を見れば、完全にのびている。音から察するに拳骨が振り乱されたのだろう。痛そうな音だったし。
 身体が熱いため、私は目の前に置いてあったグラスに口を一気に酒を飲んで身体を冷やす。

「変なコトはされてないか?」
「舐められたりとかまさぐられたししましたけど、唇は大丈夫ですっ」
「……もっと早く来れば良かったな」
「肋角父さんんんん」

 ぶわっと涙が溢れて昔呼んでいた名前が思わず出てしまったけど構わずに彼に抱きつけば優しく頭を撫でてくれる。ああやっぱりお父さんだ、肋角さんは。怖かったし、肋角さんがいなかったらどうなっていたか……様々な感情が入り混じって嗚咽が零れだす。

「名前、もう大丈夫だぞ」
「うっ……ひっ、く……あのふたり殺すっ、うえええええええええ!」
「名前……?」
「ばかばかばかあああああああ! 肋角さんがいなかったらっ、じぶんっ、ううううううううう」
「(完全に酔ってるな)」

 どうやら間違って五十度の酒を飲んでしまったらしい、ここら辺から既に記憶が曖昧になっているし。
そのあとひときしり泣いた私は肋角さんにしがみ付いたまま寝てしまったらしく、後片付けは酔いが醒めた佐疫先輩と肋角さんがやったとのこと。
 ちゃんと木舌先輩と谷裂先輩は別の場所でこってり絞られたらしいです、だろうな。

「酒は飲んでも飲まれるな、ですね」
「とりあえず木舌は暫く禁酒命令だね」

 佐疫先輩の言葉に私は苦笑を零した。







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藍風様リクエスト、木舌谷裂に挟まれて舐められたり弄られたりでした。二人のイチャイチャは書いたことがありましたら夢主とお相手二人の板ばさみは書いたことが無かったので楽しんで書いてました。谷裂があんな事をするには酒の力しかないですね。
あのまま二人に攻められてたら収拾がつかなくなってしまうので急遽肋角さんに出て来てもらいました。お話の中にある通り後輩獄卒は肋角さんのこと肋角父さんって呼んでました。小ネタです。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
藍風様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました。

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