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丸ごと全部食べられる

 鬼になってから弱点なんてものは皆無だと思っていたけれどもどうやら違ったらしい、いや、そんな事前々から分かっていたけど。鬼も完全無欠の存在でも無いんだな〜と思ったくらいだ。そんなわけで、まあ私にも弱点は幾つかあるわけで……。と言ってもこの弱点は誰にも言っていない、何人か姉さん達や友人達には必然的にバレてしまったけれども未だに恋人である田噛には気付かれていない。いや気付かれたら問題、とかそういうわけでもないのだけれども私の弱点はある意味バレたら厄介だと思う。だから今までなんとか上手い具合にやってこられた、だから、今回も、大丈夫だと思っていたのだが……。

「言え」
「言えって言われて言う馬鹿はいないよ」
「ならなおさら言えるだろう」
「おいどういう意味だ」

 ギシリと二人分の重みで軋むベッドの上、ぐぐぐと絡み合っている両手を思い切り押されるが負けじと私も手に力を込めて田噛を睨みつける。いつも気だるそうに開かれた橙色の目は妙にギラついており下手に油断したらそのまま喰わそうな勢いでもある。明日の任務の話をしていて、そしたら何故か弱点を突くとか作戦立てていた時にうっかり私が「私も突かれないようにしよう」と言葉を零したのがいけなかった。その言葉に反応した田噛がさっきからずっと教えろと聞いてきてしつこい。口が裂けても言わない私も大概だけど、言うわけ無いだろう、自分の弱点を。言ったら絶対悪戯されそうだもん。

「あのね田噛、人は誰しも知られたくない事はあるんだよ。だから、」
「知ったことか」
「横暴だ!」

 お互い力を張り合って一歩も譲らぬ堂々巡り状態。そろそろ腕が疲れてきたんだが、力を抜いたら確実にヤられる、捕まって絶対弱点を吐露しなければならないシーンなんてすぐに浮かんでくる、ならば、力を思い切りこめて押し返すしかない!

「だーかーら、言わないって!」
「……ちっ」
「ん? うわあ!?」

 グンと腕に力を込めて叫びながら田噛を押し返すと、田噛は心底だるそうに舌打ちをしたかと思ったら否や、そのまま自分の方に手を引いてき、急に押し出していた力が行き場を失い力と共に私は田噛の方に身体を崩してしまい田噛の上に倒れこむようにバランスを崩し、すかさず背中に田噛の腕が回りそのままベッドの上に身体を沈めた。先ほどよりも強い力でスプリングが跳ね上がり埃が少しだけ辺りを舞う。下がベッドだから痛みは全然無いけれども、脱力した重みで田噛が潰されていないか不安で仕方が無いの上半身を上げようとしたら背中に回っていた手に力が入り動けない。
 何が狙いだコイツ。

「田噛?」
「あーだりぃ……疲れた」
「ならさっさと諦めれば良かったのに……」
「お前が言わないのが悪いんだろ」
「無茶苦茶過ぎる……」

 微かに上下に揺れ動く田噛の胸の上で呆れ気味にため息を零せば、田噛は何も言わずに私の髪の毛にあいた手を絡めるとそのままぐしゃぐしゃと撫で付ける。……ほんと、さっきまであんなに食い気味だったのに今では何も言わずにただ私の背中をなぞったり髪の毛で遊んだり、……改めてみると、田噛って猫みたいだ。気紛れで大抵暇な時間は寝ていることが多い、構って欲しい時に擦り寄る……あ、完璧猫だ。

「……重くないですか?」
「重かったらさっさとどかしてる」
「そっか」

 どくどく聞こえる心音は少し心地良く眠気を誘ってくるようにも思える。こうして密着していると田噛の体温も伝わってくるし……、田噛は結構体温低い方だけど、今は暖かい気がする。まあ私自身が結構体温高いから自分の体温で感じているのかも知れないけど、眠くなる温度なのは確かだ。
うとうとし始めた頃に「あ」と田噛が変な声を零したので、顔を上げずに間延びした声を上げれば髪の毛を撫で付けていた田噛の手が離れた。 

「名前、ゴミついてんぞ」
「え? どこ、」
「取ってやるから動くな」

 横になった状態でよく見つけられたな。言われた通り大人しく身体をかためると、田噛の手が伸び耳元を覆う髪の毛にもぐりこんだ、と、同時に彼の指が耳に触れた瞬間ぴりっと電流が走ったかのような感覚が背中を駆け抜けて身体が跳ねた。

「んっ……」
「……あ?」
「っ、え、あ……!」

 すぐさま自分が発した声に気付き、思わず口を覆うが時既に遅し。おそるおそる身体を持ち上げて先ほどまで弱点を教えろと詰め寄っていた目の前の男に視線を向ければ、ポカンと口を開けたまま呆然としていた。……多分、田噛は頭が良いから先ほど発してしまった私の吐息交じりの声で察しただろう、これは、早急に撤退せねば。身体を起き上がらせて、私は何食わぬ笑顔で言葉を発する。

「えっと、用事思い出したから帰る!」

 用事なんて無い、が、この空間から抜け出さないと喰われる。急いで彼の上から降りようと身体を動かした瞬間、骨を折る勢いで私の腰元に田噛の手が喰い付き一瞬だけ身体が浮いたと思ったら世界が反転して柔らかい地面に押し倒される。音を立てて布団の上に身体を沈みこませたと同時に田噛がすかさず私の上に跨り先ほどと同じように瞳に光を放ち私を見つめる。……これから彼がすることが安易に想像出来て、どこからか冷や汗が流れ込んできた。

「……そこが弱点か」
「ち、違う違う! 今のはちょっと吃驚しただけなの!」
「へえ」
「ひ、っ……!?」

 目を細め、どこか笑みを浮かべているこの男から逃げ出さなければ、と頭の警報がうるさいくらい鳴り響いているのに、どこから諦めている自分がいる。だって、私が今まで似たような自体に遭遇しても結局彼の手から逃げられたことなんて一度も無い、結局田噛にほだされてしまうのだ。
言葉で否定しようものなら田噛は半ば私の話なんか聞かず、弱点をもう一度確認したいのかすり、と耳朶を軽く擦った。と、同時に微弱な電撃を浴びたかのような感覚がまた走って出そうと思っていないのに変な声が口から零れる。しまった、と思った時には私の上に跨っている男は先ほどよりもくっきりと口角を吊り上げて、言った。

「弱点じゃねーならなんでそんな声出るんだ? 名前」
「そ、それはっ……ぁっ、や、触るなっ……!」
「弱点じゃないっつったのはお前だろ」
「っ……! んっ……!」

 短く切り揃えられた田噛の爪が耳の輪郭をなぞったかと思ったら、指の腹で耳朶を擽られたり耳の裏を擽られ、意味も無く息が上がり徐々に熱を孕んでいく。くすぐったさと、妙な快感が身体中を駆け巡り必死に彼の手から逃げようと身体を捻るが、それを阻止しようと田噛の身体が私の上に降りてきて軽く体重を乗せられる。顔の右横すぐに田噛の顔があって、視線を私の耳に向けずにただ執拗に私の耳を攻め続ける田噛。拒絶しようにも、声を出そうにも、出てくるのは熱を孕んだ吐息と言葉にならない声だけだった。
 
「はっ……。や、だっ……」
「弱点じゃないんだろ?」
「ひっ、あ……、声、出さないでっ……!」

 ずるい、ここまで来れば弱点だって分かるはずなのに……! 意地悪く私の耳を指で弄りながら反対側の耳も攻めたいのか囁くような低い声が耳元に入り込み、先ほどよりも強い何かが駆け巡る。やばい、間近で囁かれるとこんなにくすぐったいっけ? 物事を考えようとすると、田噛もなにか感じ取ったのか強く耳を擽ったり反対側の耳には軽く息を吹きかけてくる。

「んんっ……! た、がみ……っ」
「なんだよ。大人しくしてろ」
「あっ、っ……ん!?」

 右側の耳の中に湿り気を帯びた熱いものが潜り込み、やけにリアルな水音が鼓膜を伝わり脳内に木魂した。ねっとりとしたものが耳の中で暴れぴちゃ、と音を立てるたびに神経を刺激され、田噛の身体を押し返そうと思ったのに何故だか私は自分の腕を田噛の背中に回りシャツに皺をつける勢いで握り締めた。これは、やばい……! 身体がさっきの時よりも熱く熱を帯び始め口から出る言葉は既に言葉になっておらず途切れ途切れに吐き出す吐息のみになる。

「……そんなに良いのかよ」
「ち、ちがっ……、う……!」
「見え透いた嘘つくんじゃねーよ。嫌なら抱きつくどころか押し返すだろ」
「うっ……」
「……ま、悪くねーけど」
「え」

 デレた、と掠れ気味の声で呟けば聞こえているのかいないのか分からないが田噛は状態を起こすと私の輪郭を指先で軽くなぞり、目を細めるとそのまま唇を押し当てる。いきなりのキスで驚くが、好きな人とするキスが嫌なわけも無くそのまま目を瞑っていると口を開けられ田噛の熱い舌が入ってくる。深いキスは、正直苦手だ。舌を上手く動かせないし、時折目を開けて唇に貪る田噛を見ていると胸がきゅんと高鳴り身体も熱くなり自分が自分じゃないみたいにふわふわした感覚に陥ってどうしたら良いのか分からなくなってしまう、全て田噛に任せようと思い身体の力を抜いたが、耳に違和感を感じて思わず身体が強張る。

「ん!?」
「っ……、こっち、集中しろ」
「んぁっ……まっ、あっ」

 舌を私の口の中に出しているからか、若干くぐもった声を出しながら言葉を発する田噛の声なんか、耳朶を弄ばれている私には聞こえるはずもなく、口内から伝わる熱と耳から伝わる快感で頭の中で真っ白になりつつあり舌を吸われたり、上唇や下唇の裏をねっとりと舐られているだけで気持ちよさが来るのに弱点である耳元からも変な刺激が入ってくるから上手く力を出せなくだらしなく口元から涎が零れ出る。違う、こんなの、自分じゃない……。バレた時にも姉さん達や友人達に時折耳に悪戯されるが、そんなちゃちなものじゃない、身も心もおかしくなりそうなくらいの快感が身体中を駆け巡る。背中に回した手に力を込めることでしか応えられない。駄目だ、これ以上、やられると、

「ふ、あっ……あ、っ……!」
「……はっ、こんなに弱いと逆に関心するな」
「た、たがみ……」
「……なんだよ」
「頭、真っ白になるから……」

 止めて、と言おうとした瞬間私が目にしたのは、耳を赤く染め上げ照れ隠しのつもりなのか口元を手で多い視線を伏せた田噛の姿だった。今の流れでどうして田噛が照れるのが全く分からなくて、耳からの刺激も無くなったので息を整えながら田噛を見れば、なぜか私のシャツに手をかけて、そのままゆっくりと捲り上げ始めた。

「田噛、え?」
「んな顔されてあんな事言われたら誘ってるとしかおもえねーよ」
「はあ!?」
「くそっ……覚悟しろよ、腰砕けるくらい攻め立ててやる」
「待って待って会話出来てない! おちつい、ひあっ!?」
「俺は十分落ち着いてる」

 牽制させるためか、今度は反対側の耳を指で弄り始め熱の塊のように熱くなっている私の身体は無意識に反応して情けない声を上げる。拒絶すらする気力が残ってない私は震える手で田噛の胸元に手を当てれば、手に振動が伝わってくるくらい大きく鳴り響く心臓と熱を帯びている熱い体温がシャツ越しに伝わってくる。身体を屈めた田噛の唇が耳元に寄り添い、荒い呼吸で耳元は敏感に反応する。

「名前」
「んっ、……な、に」
「……好きだ」

 蚊の鳴くような声で囁いたたった三文字の言葉は、私のありとあらゆる器官を刺激するには十分すぎた。田噛はずるい、私を上手く丸め込む術を知っているから、そのためなら己のプライドなど簡単に捨ててくる。結局ほだされて丸め込まれる私も私なのだけど。このまま彼に丸ごと食べられてしまうのだろう、それはそれで悪くない、なんて事は言わないけど。

「……私も、好きだよ」
「…………言われなくても知ってる」

 顔まで赤いくせに強がる田噛が可愛くて、行き場を失っていた田噛の手を取り自分よりも長く太い指を甘噛みするように歯を立てて喰らい突いた。丸ごと食べられなくても、私だって食す権利は有るはずだ。なぞるように舌で田噛の指を味わえば、少しだけ歪んだ田噛の表情を見て思わず口角が上がった。






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うり様リクエスト、耳が弱い事がバレてひたすら攻められる後輩獄卒でした。自爆でも良かったのですがうっかり気を抜いた瞬間にバレちゃった、みたいなのが書きたかったのでそうしました。
しかし敢えて弱点じゃないんだろ? とか言いながら攻め続けるのは中々真っ黒い策士田噛……。多分、このお話の田噛は指とか弱い設定ですかねこうなぞるように舐められたり触れるとゾワッときたり。最後の一文は初めて弱点を知ったか、弱点を知っているからこそ反応を楽しんでいる、二つのパターンで捉えられるかと。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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