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手にした確かな幸せの数々

※子どもの名前は千璃(せんり)で固定。

 人間から鬼になり、様々な人と関わりと持ち、無くしていたと思っていた恋をするという感情が芽生え、お互いじれったいながらも徐々に距離を縮める事ができ何時しか相思相愛、お互いを想い合えるようになって気がつけば自分とその大切な人との血が流れる子どもにも恵まれた。
 私の膝の上に座り一生懸命小さな手で折り紙を折っている子のつむじをじっと見つめる。お腹に居た頃から獄都の屋敷に別に建っている既婚者専用の部屋を借りてそこで暮らし始めてはや数年、泣くことでコミュニケーションを保っていた我が子千璃が立ち上がり饒舌に言葉を話すようになった時はこの子の父親と一緒にかなり驚いたあの時間がつい昨日のようにも思えてしまう。
 今日はもう一人の家族が任務へ赴いておりどうやら結構時間を要する。という事で先にご飯を食べてお風呂も入り今は束の間の遊び時間、木舌先輩が街で買い物へ行った際に買ってきてくれた折り紙である物を折っている間折り紙というものを初めて見る千璃は期待に満ちた目で私の手元を見ている。

「あとは、ここを広げれば……ほら、折鶴」
「おかーさんすごーい! かしてかして!」
「千璃も折ってみる?」
「できるかなぁ……」
「じゃあお母さんと一緒に折ろうか」
「うん!」

 絹糸のようなやわらかい自分譲りの黒髪を撫で付ければ嬉しそうに目を細める。他の人よりも少しだけつり上がった瞳は紛れも無く父親譲りだ。彼ほど分かりやすくつり上がってははいないが目の形は恐ろしいほど似ている、彼とこの子の目を並べれば大抵の人が親子、もしくは身内と答えるくらいだ、と私は思っている。フッと顔を上げた時に私の瞳に映った色は、少しだけ銀掛かった暗めの紫色、どうやらこの色は私と彼の色が混ざり合っているらしい。本当に、見れば見るほど私達の子なんだ、と実感させられる。
時計を見れば二十時を示しており、付けているテレビにたまに目をやりながら我が子の一人遊びを眺めているとテーブルの上に置いてあった私の携帯がバイブ音を鳴らしながらガタガタと揺れた。

「おかーさん、鳴ってる!」
「うん。……あ、お父さんだ」
「せんりも見る」

 メール画面を見れば、たった一行だけ書かれた“近い場所に戻って来た。すぐに帰る”という文章だった。上手い具合に任務場所から屋敷の近くに空間を繋げたということだろう。まだ字が読めない千璃が難しそうな表情で私の顔を見たので「お父さん、すぐ帰ってくるって」と言えば嬉しそうに表情を明るくさせた、ああもう、可愛いな。……彼の言うすぐ、という言葉は本当にすぐなので今から夕飯の準備をしておかなければ。膝の上に乗っている千璃の小さな身体を持ち上げて隣の座布団の上に座らせると不思議そうな顔をしているので頭を撫でながら言葉を投げ掛けた。

「千璃、お母さん、お父さんの分のご飯用意してくるね」
「いい子にしてる!」
「よしよし、偉いぞ」

 自他共に厳しい、昔ながらの頑固親父が我が家の大黒柱だからそんな彼に育てられた千璃は周りの同い年くらいの子に比べれば間違いなく良い子、と言われる部類だろう。一度田噛先輩と平腹先輩にこの子を預けたことがあったのだけれどもその時投げ掛けられた言葉は「千璃、本当は平腹よりも年上なんじゃね?」だった。思わず笑ってしまった。
お風呂を沸かすために機械を設定し、おかずが入ったフライパンに火をかけ軽く炒めていると僅かだか鍵を開ける音が耳に入りこむ。と同時に後ろを振り向けば折り紙に夢中になっていた千璃は「おとーさんだ!」と叫んで勢いよく立ち上がるとそのままとたとたと走り出して玄関へと走って行ってしまった。もう、嬉しいのは分かるけど走ると危ないって何度も言っているのに。ため息を零しつつ火を止めて玄関へ向かえば千璃の父親であり、私が大好きな彼が丁度長靴を脱いでいる最中だった。

「お帰り、谷裂」
「名前か。……今帰った」
「おとーさんーおかえりー!」
「ああ。ただいま」

 任務から帰ってきた後は汚れている場合が多いから私も谷裂もお風呂に入るか着替えるまでは千璃には触らないように意識している。外に居る場合は仕方ないけれど、家だと大抵そういうルールが決まっているのだ、だから我が家ではご飯前にお風呂に入ることが多い。汚れた金棒は後で綺麗にする、と言う谷裂の言葉を耳に入れて私は寝室に入り谷裂の着替えを出していると廊下から声が聞こえる。

「あのねーせんりねー、おりがみおってたんだよ!」
「そうか、名前に教えて貰ったのか?」
「うん! これおってたの、だからおとーさんにあげる」
「……随分上手に折ったんだな。感謝する」
「ふふふ!」
「ほら千璃、お父さんお風呂行くから向こうで待っててあげてね」
「はーい」

 はい着替え、と彼に着替えを渡そうと声を掛けるも谷裂は手の中にあるものをじっと見つめて動かない。廊下の間接照明をもう一段階上げて彼がジッと見つめているものに視線を寄せれば、それはよれよれで不恰好な紫色の折り紙で作られた折鶴だった。私が説明しながら使った折り紙は、確か青。……折り方を簡単に教えただけなのに、あの子は全部覚えて紫色の折り紙を使って自分一人で折ったのか、凄すぎるだろ。今だ見つめて動かない谷裂に摘まれた折鶴を軽く指で突けば一点を見つめていた紫色の瞳が動いて私とぶつかった。

「……居たのか、名前」
「さっきから声掛けてたの気付かなかったでしょ?」
「そうだな、確かに気を取られていた」
「どうしたの?」
「いや、千璃もこういったものを折れるようになったんだな……正直成長を見縊っていた」
「日に日に大きくなって行ってるからねー、そのうち谷裂の背追い越すかも?」
「そんなことある訳ないだろう」
「どうだろう、……え?」

 笑いながら言えば谷裂はフッと息を吐いて着替えを受け取ると何故だか私の手を引いて脱衣所まで入って行った。え、なに一緒に入るの? いやいやいやあの堅物ストイックな谷裂がそんなことを強請るわけないか、何という事は何かやらかしちゃった? 家賃とか滞納してこの家から出て行けみたいな? そんな事になったら大変どころの騒ぎじゃ無くなるぞ。色々とマイナス方面の考えばかりが頭の中でぐるぐる回って呆然としていると、骨ばった手が私の頬を撫でて持ち上げる。

「たにざ、ん」

 言葉を出す前に、つり上がった紫が私を捉え気が付けばパサついた谷裂の唇が私の唇に触れた。最初に比べると随分口付けの仕方も柔らかくなった。付き合いたてで始めてキスした頃はただぶつけ合うようなキスだったのに今となっては全部を包み込むような、あの谷裂からは考えられないくらい優しいキスだ。
触れたのはほんの一瞬だったけれども私の身体は一気に熱くなりその熱が顔にも回る。離れた相手の顔も、ほんのり朱を帯びていてそのままフイッと顔を逸らされた。

「……浮気をされては溜まらんからな」
「最近していなかったもんね、嬉しい」
「……風呂に入る」
「背中流す?」
「なっ、何を言っている! いらん!」
「ふふ、じゃあ待ってるね」
「くそっ……」

 気まずそうに頭をガシガシ掻いた谷裂の身体は面白いくらい熱くて顔も真っ赤に染まっている。言われてみれば確かに千璃がこの部屋を歩き回るようになってからは毎日していた行ってらっしゃいやお帰りのキスはしなくなった、まあこのキスも、好き、という気持ちを忘れないための儀式みたいなものだったけれども。千璃が寝た後もお互い疲れて寝てしまうことが多かったのでキス自体は久しぶり、なんやかんや谷裂もしたかったのかな? そう考えるとゆるゆると口角が上がって嬉しくなってしまう。
もう一品くらい谷裂が好きなおかずでも作ろう、にやけた顔を隠すように口元を手で覆って私は千璃が待っているリビングへと歩いて行った。



 はてさて旦那様がお風呂へ入って数十分、あらかた晩酌の準備も終わったのでおかずをお皿に盛り付けている間に千璃は折り紙に齧りついてしゃべる気配が無い時折生きているのか不安になり生存を確認するが大丈夫ちゃんと生きてる。今日は熱いから水分取らせなきゃなー、と思って千璃用のプラスチックの小鬼が描かれたカップをガラス棚から取り出して冷えた麦茶を注いでいる間に廊下の扉が開かれて、タンクトップとラフなズボンを穿いた谷裂が頭の水気を拭き取りながら現れ一気に部屋の温度がお風呂上り特有の熱気で熱くなった。
しかしそんな事は気にせずに千璃は目的の人物を視界に捕らえると待ってましたと言わんばかりに駆け寄って筋肉しかない硬い足に飛びついた。

「おとーさん」
「あ、谷裂、これ飲ませてあげて」
「ああ。……千璃、きちんと水分を取れよ」
「んー」

 甘えるように擦り寄った千璃を見て谷裂は少しだけ柔らかい笑みを浮かべるとそのままひょいと抱き上げる。谷裂は千璃を抱っこするのが好きだ、赤ちゃんだった時は落とすのが怖いとか潰してしまいそうだ、と言って頑なに抱っこを避けていたあの時期が考えられない。
麦茶が入ったコップを谷裂に渡すと谷裂はそのまま千璃にコップを渡して飲むのを見届ける。そろそろ夜も遅いし千璃寝かしつけなきゃ、ご飯の準備をしながら彼是考えていると谷裂がコップをテーブルの上に置いた。ふっと千璃を見れば眠気が来たのか目をぱちぱちと忙しなく動かしてそのまま目をかいているので止めさせようと手を伸ばした瞬間に谷裂の手がそれを制し改めて千璃が身体全体を谷裂の身体に寄り掛かるように抱きなおすとそのまま背中を叩く。

「千璃、眠いのか」
「ん……」
「じゃあ寝室へ行くぞ。……名前、寝かしつけてくる」
「いや、私が行くよ。谷裂疲れてるでしょ?」
「寝かしつけくらい俺でも出来る。お前は座ってろ」

 何か言う前にポンと、大きな手が頭の上に乗って離れて行った。眠たそうに「おかーさん」なんて呟く千璃の額にキスをして「お休み千璃」と言えば千璃も寝惚け眼ながら私の頬にキスをしてそのまま糸が切れたかのように谷裂の身体に全体重を預けて瞼を降ろしてしまった。ありゃ寝ちゃった、と思いながらも谷裂を見れば相変わらず背中を叩く仕草は止めないでそのまま寝室へと消えて行った。なんだか、あの谷裂がこんなにもお父さんをやっていると違和感でしかない、どんな事があっても他人に厳しく自分にも厳しくて獄卒の中でも鬼と称されていた彼が所帯を持ち子一人の父親になっているのだ。まあ奥さんも、彼の子を産んだのも私なのだけれども……、未だに木舌先輩なんかも「谷裂がお父さんって似合わないよねー」なんて言っているくらいだし。

「確かに、似合わないかも」

 過去のことを思い返して言葉にしてみれば妙におかしくて笑ってしまう。笑みを浮かべてお酒を冷蔵庫から出しているとすぐに寝室から谷裂は帰ってきておかずが並んであるテーブルの前に座り込み改めて一息ついた。

「アイツも、昔に比べたら重くなったな」
「いっぱい食べるからねー、おかわりもするようになったんだよ」
「……」
「……谷裂?」
「名前、こっちへ来い」
「!?」

 言う前に身体を引き寄せられてそのまま湯上りで熱い谷裂の逞しい身体に飛び込むように倒れ込んだ。中腰のまま腕を引っ張られたが何とか体制を変えて胡坐をかいている彼の上に収まる形で座り込み、密着している身体は熱くて遠くからでも心臓の音が聞こえるくらい谷裂の心臓は五月蝿く鳴り響いていた。行き成りの出来事と、久々にこうして密着しているという事実がありなぜだか気恥ずかしくなり顔を見られないように手で覆い隠す。わー、なんだろう、暫く触れ合ってないとその反動って大きいんだなーと改めて思い知らされる。それと千璃が何時起きてくるのか気が気ではない、まあ今の姿見られても多分「せんりも!」なんて叫んで私の上に跨ってくるか谷裂の背中に飛びつくくらいは安易に想像出来る。
 って違う、今はどうして谷裂がこんな事をしたのかだ、チラッと指の間から彼の顔を見ればやはりさっきの脱衣所の時と同様顔はほんのり赤くなっていてこっちまで余計に照れそうだ。

「谷裂、どうしたの?」
「よく分からない。だが、ぐっすり眠り込んでいる千璃を見ていたら急にこうしたくなっただけだ、勘違いするな」
「(何をですか……)」

 千璃はもう眠り込んだんだ。というか千璃を見て私を抱き締めたくなったっていうのはちょっと意味が分からないんだけど、気がつけば肩に回っていた手に力が入って、ほんのり香る同じシャンプーの匂いが鼻腔を擽って生温かい唇がさっきと同じように私の唇にやんわり触れた。むに、と感触を楽しむように何回かお互いの唇が軽く触れ合って、目が合う。真っ直ぐ射抜くように向かれた紫色は、力強くて思わず身体が硬直してしまう。

「名前」
「ん?」
「……千璃は、俺たちが絶対に護りぬかなければならない存在だ。これから先、ずっと」
「……うん」
「だが、それと同じくらい俺は名前のことも護る。絶対に俺の手から離れさせない」
「…………」
「無垢なあの寝顔を見てそう感じた。……もう遅いからお前も寝ろ」

 吐き捨てられた言葉と共に私の身体が持ち上げられて谷裂も立ち上がった。え、胡坐をかいた状態で人を姫抱っこして立ち上がるって結構力要るよね、それを軽々とやってのける谷裂ってやっぱり凄い人だ、それに、あの真剣な瞳を見て吐き出された言葉は私の心に溶け込むには十分すぎて、嬉しさや照れ臭さ、よく分からない感情が鬩ぎあって視界が僅かに揺れた。膝裏と肩に添えられた手は力強く暖かくて、密着している体温は私には心地良すぎてこれだけで幸せだと感じてしまうほどで……、お互い愛の言葉を囁く機会なんて殆ど無かった、言わなくても分かっていたけれどもいざこうして形にされたらどう言えば良いのか分からなくなってしまう。

「たに、ざき」
「なんだ」
「……私、谷裂と家族になれて良かったよ。貴方との子ども、産めて良かった」
「……」

 寝室へと入る前の扉で立ち止まり、上体を起こして彼の首に腕を絡めて首筋に顔を埋めれば大好きな谷裂の匂いで、涙ぐみながら言葉を言えばただ谷裂は何も言わずに添えられた手に力を込めた。

「名前、……あ、……い、してる……!」
「……! 私も、愛してるよ」

 不器用に吐き出された言葉で我慢出来なくなったが、キュッと唇を噛み締めてただただしがみ付いた。
好きで好きでどうしようもない、不器用で愛おしい旦那様と私達の大切な子ども。私も、護られるだけではなくて護っていかなければならない。お互いがそれぞれ護っていくのではない、私達二人が、誰よりも大切なあの子を護りぬくんだ。

「明日も仕事だろう、入るぞ」
「谷裂は非番だよね? ……千璃、多分喜ぶよ」
「……今度三人で出掛けるぞ。お前等の行きたい場所なぞ分からないから決めておけ」
「うん。ありがと」

 ベッドに身体を沈みこませながら、真ん中で穏やかな寝息を立てている千璃を起こさないように短い会話を交わす。暗がりの中でも笑い掛ければそれが伝わったのか、先ほどとは違って少しだけ乱暴な唇が降って来た。この幸せを噛み締めながら、私はゆっくり目を瞑って頬に宛がわれた手にそっと触れた。







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ゆり様リクエスト、メモ帳出来ちゃった。その後のお話です。子どもの性別は記載していないのはわざとです、性別決められなかった……! 最後まで赤ちゃんにするか幼子にするか迷いましたがどうしても「おとーさん」って言わせたかったので幼子に。谷裂は多分子どもにはデレデレになる事は無いけれども結構甘やかしてそうなイメージあります……、今回は後輩獄卒に甘えたな谷裂でしたかね。いやあ何となくお母さんになった後輩獄卒は大人っぽくなったのでは、とか思いながら書いてました。
千璃は獄卒たちにも可愛がられていたりとか、谷裂と同じで肋角さんにも懐いてそう。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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