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物語の主人公とヒロインは

 私だって、夢を見ることくらいある。眠る時に見る夢ではなくて、目標や憧れの夢だ。持ち前のプライドのせいか人に助けて貰ったり、自ら人に頼る事は苦手中の苦手だ、逆に頼られるのが好きで同僚達の頼みごとを色々引き受けているうちに人から頼られる事が多くなった。元々背が他の女子達よりも高く、性格も男っぽい且つ自分で言うのもなんだけど明るいから話しかけやすいし話し掛けられやすい、男友達も結構多い部類に入ると思う。

「今回の任務はかなり危険だ、そのため平腹を同行させる」
「平腹ですか? ……分かりました、全て片付けてみせます」
「期待しているぞ」
「はい!」

 上司の肋角さんに敬礼をしてすぐに執務室を後にした。平腹、か……正直平腹は苦手だ、言う事を聞かずに勝手に突っ走って行きたいていの場合攻撃され無駄死にしているか味方の私にまで攻撃を仕掛けようとする。ある意味トラブルメーカーだ、まあ場を明るくさせてくれる事は望ましいが静かにしろと言っているのにぎゃーぎゃー騒ぐのを見ているとなんだか手の掛かる子どもと歩いているように錯覚する。

「名前! 平腹と任務へ行くんだよね? 頑張って!」
「ああ、ありがとう。まあ私一人でなんとかなると思うけど」
「相変わらず一人で何でも担おうとしている……、本当は夢見る乙女なのにね?」
「それ以上言ったら無駄死にすることになるぞ木舌!」

 思わず顔に熱がたまって大声を出してしまった。こいつ、ほんと私をからかうのが好きだな。まあ、冒頭で話したとおり私だって憧れとかの夢があるんだ。周りの女の子達は獄卒にも関わらずふわふわした可愛い子や、大和撫子みたいに美しい子達が多い。うん、私だって出来ればそういう子達に交ってガールズトークとかしたい、女の子らしくなって……いつか、好きな人が出来たらなぁ、なんていう願望がある。なぜ木舌が知っているのかと言うと、酔った勢いで吐露してしまった、けれどもそのお陰で木舌の前では素になれるけど、素になれると言ってもやはり彼にもプライドが邪魔して頼ったり、弱音を吐くことは出来ない。

「いつか現れると良いね、素敵な王子様」
「寧ろお姫様でも構わないけど?」
「冗談に聞こえないから」
「お、名前ー! 任務いこーぜ!」

 にやにや笑う木舌の頬を掴みながら意地悪く笑っていると、急に後ろから何者かが飛びついてきて思わずバランスを崩しそうになるが、何とか持ちこたえて腰元に絡みついた腕を掴みため息を零しながら後ろを振り向いた。コイツ、私を見かけるたびに飛びついてくるから困る、犬か。

「平腹、いきなり飛びつくのは止めろ」
「任務任務! いこーぜ!」
「話を聞け馬鹿」
「二人共気をつけてね〜」

 あ、木舌逃げやがったな。……任務へ行こうとしている途中だったから良いか、私の頭の上に顎を乗せて喚く平腹にため息を零しつつ身体を離し任務内容を確認する。平腹の場合言ってもあまり意味無いと思うが、なにも教えないよりはマシだろう。

「良いか平腹、あまり勝手な行動はするなよ? なにかあったらすぐ私を呼べ」
「分かってるよー! 名前もピンチになったらオレを呼べよ!」
「努力してみるよ」

 ふっと息を吐いて笑いながら言えば、さっきまで笑顔を浮かべていた平腹がふっと真顔にそのまま唇を尖らせた。なんだ? なにかおかしなことでも言ったかな。

「名前はさー、もっと人を頼っても良いんじゃね?」
「そうか? ま、それが出来れば苦労はしないんだけどね」
「オレがすぐ飛んでってやるからな!」
「はいはい、有難うな」

 一瞬だけ心臓がドキリと音を立てた。いつも頼られてばかりでお礼を述べられるだけだったのに、頼っても良いだなんて言われるのは初めてだったので私は思わず目を丸くしてしまったが、すぐに笑顔を向けて頭を撫でた平腹の手を軽く払いのける。私が人を頼ることが出来るなら、こんな苦労はしていないはずだ。全く、平腹は無自覚に変なことを言うから厄介だ。



「ぐっ、……くそ!」
「ワカッテヨアナタモヒトリナンデショ?」

 やられた、まさか後ろから殴り掛かられるとは思わなかった。
肋角さんが今回は危険な任務だと言っていたのを漸くここで自覚して舌打ちをする。小規模な敷地の中に怪異がわんさか居た、怪異自体は微弱なものだと思って完全に油断していたのがいけなかったんだ倒された怪異達が集まり一つの魑魅魍魎になることによって力を一気に爆発させる、その爆発にやられ私は背後を取られて成す術がない。右腕を取られ、片目を抉られた、痛み自体はだいぶ引いてきたが力が出なく混乱で声が出ない。

「ネエイッショニラクニナリマショウ?」
「黙れ! 誰がお前なんかと……!」
「ヒトリデミエヲハッテタヨルヒトモイナイ」
「!」
「ジブンヲコロシツヅケルノ?」

 抉られた目玉を握り潰され、ハニワのように顔に空洞がある怪異は私の首を締め付け言葉を投げ掛ける、普段ならこんな言葉なんかで靡くわけがないのに、……この怪異の言葉は妙に自分に当てはまっていて怯んでしまう。どうして、どうしてお前なんかに言われなければいけないんだ、心臓がどくんと音を立て冷や汗も流れ出る、ひゅっと言葉を出そうにも喉が掠れただただ荒い息しか出なかった。
 こうなったら別の場所に走り出してしまった平腹を追えばよかった、いつものことだから諦めたのがいけなかったんだ。

「そんな、ことっ」
「アナタハアコガレノオヒメサマナンカニハナレナインダヨ」
「……っ」
「サヨウナラ」

 ぎりっと首に回っていたものに力が入り、投げ掛けられた言葉で完全に力が抜けてしまった。ああやっぱり、私はみんなを引っ張るヒーローにしかなれないんだ、ふわふわして、きらきら輝く可愛らしいお姫様なんかには一生なれないのか。その事実がじわじわと脳内に響き渡り対抗する気にもなれなかった、けれど、一度で良いから可愛らしい女の子にはなりたいんだ、今だけは、死ぬ間際だけ弱音を吐いても良いかな。朦朧とする意識の中で、私は掠れ気味の声で言葉を振り絞った、

「、助けて……」

 埋め込まれた右目から生暖かい涙が流れ出て、視界がじょじょに黒く霞みだして意識が遠のいた。

「名前危ないっ!」
「アアアアアアアアアア!」
「……?」

 死んだ、と思った瞬間にふっと私の身体を蝕んでいた重みが取れて身体が軽くなった。目の前にいたおぞましい怪異が遠くに吹き飛んで薄紫色の煙となり消滅していった。あれ、そういえば聞き慣れた声が耳朶を打っていたが、誰だ、いや、分かりきっている、分かりきっているからこそ混乱している。

「え、平腹?」
「名前大丈夫か!? うっわ抉られてるし腕取れてんじゃん! オマエがここまでやられるなんて珍しいな!」
「分かったから、行き成り捲くし立てないでくれ」
「けど死ななくて良かったな!」
「平腹のお陰で助かった。……有難う」

 まさか助けられるとは思ってもみなかった。私一人でも任務は大体こなせるから今回も大丈夫だろうと高を括っていた自分に罰が当たったのかもしれない。助けられたのは事実だから、無い右腕に持っていたハンカチを巻きつけて平腹に顔を向けお礼を言う。……なんだか、平腹にお礼を言うのは不思議だ、死んだ平腹を回収してお礼を言われる側だったし。
お礼を言ったあと、平腹は御満悦気味に口角を吊り上げて目を輝かせて私の顔を覗きこんだ、なんだ、どうした。

「オレ、名前の助けてって声を聞きつけて駆けつけたんだぜ! やっとオレを頼ってくれたって思ってな!」
「……は?」
「これからはもーっとオレを頼れよな! 名前女の子なんだから!」

 ぐに、と頬を掴まれて一気に言葉を捲くし立てられた。顔の近さよりも、私が小さく呟いた言葉が多分遠くにいたであろう平腹に聞こえていたこと事態に驚きと羞恥心。そして今まで誰にも言わなかった、女の子なんだから、という言葉。ある意味男みたいな私をこうして女の子扱いしてくれる奴なんて居ただろうか、……あれ、平腹ってこんなに頼りがいがあってカッコよかったっけ? 触れられた部分が熱く、彼の黄色い瞳を見ているだけで心臓が大きく脈打つ。

「ふぉ? 名前?」
「……なんでもない、なんでもないよ平腹」
「ふうん? ま、オレの前ではお姫様とかになろうとすんのも良いんじゃね?」
「え」
「オレオマエの王子様になるからさ!」

 ぐしゃりと髪を撫で付けられて投げ掛けられた言葉は私が夢見ていたような出来事みたいで、ここはおとぎ話の世界か? 妙にふわふわと夢心地のようだ。

「うん。……頼りにしてるよ、平腹」
「おう!」

 期待を込めたような笑顔を浮かべれば、黄色い瞳がすっと細められ私よりも大きな手が私の手を握り締めた。これは、ある意味私が主役の、……ヒロインの、おとぎ話なのかもしれない。憧れの王子様は、もう分かりきっている。






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ゆずひと様リクエスト、死にそうなところを助けにきてくれる平腹でした。
ボーイッシュで回りに頼られてばかりの女の子が、ふと見せる弱音とか頼るところとかって良いですよね、しかも本当は誰よりも女の子らしかったら尚良い。
颯爽と助けにきてくれる、というニュアンスだったのでもう王子様のイメージしかないだろう、と思いながら書いてました。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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