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二人がいるなら地獄の果てどこまでも

 平腹くんはよく言えば明るくムードメーカー、悪く言えばお調子者で馬鹿。いつもハイテンションで笑顔を浮かべていて楽しそうだ、そんな彼を見ているとこちらも楽しくなって笑顔を浮かべてしまうくらいだ。
一方の田噛くんは結構な怠惰な人だ、気だるげな瞳は正直恐いと思うけれどもカッコイイから目を瞑ることが出来る、口から吐き出される言葉は大抵マイナス方面で結構口が悪いし相手によっては手が出るのが早い、けど、凄く強い。私は二人が大好きで、もう愛していると言っても良いくらいゾッコンだ。

 なんで私がこんなに二人について懇切丁寧かつ真剣に説明しているかと言うと二人は私の恩人なのだ、任務で手こずっていたところを二人して助けてくれた、(最も田噛くんは腰を抜かしていた私を遠くに吹っ飛ばしただけだけれども)それ以来私は二人に惚れてしまった、え? 二人の惚れるなんて可笑しい? それは確かにご尤もです、私も二人の男性に恋愛的な意味で惚れてしまうとは思ってもいませんでしたよ。
けれど偶然が重なってそうなってしまったわけで、別に可笑しい事なんて一つもないですよ、こういった愛の形もあるでしょ? 愛を振り分ける人が二人いるだけのことです、きちんと私生活を見届ける分、二人だと見分けるのに少し辛いところもあるけれど楽しそうな彼等を見ているだけで私は幸せだから良いんだ、その苦しさが愛みたいな? そうつまるところは愛なんです。私は二人を愛しているんです、……さすがにしつこいですかね、けれどもこんな短い文じゃ全然足りないんですけどね。

 べったべたに付いた血を舐めとって、武器を床に転がせばグチャグチャになった怪異を踏みつけて足を動かした。

「良かったぁ、コレで漸くこの前のお返しをすることが出来ました! ずっと助けてくれた恩返しをしたいと思っていたんです。まさか今度は私が亡者から二人を颯爽と助けるとは思ってもみませんでしたけれども同じ量のお返しをしたい派だったらこれが妥当ですかね? ですけどコイツほんと調子乗ってますね平腹くんと田噛くんの後ろをずっと虎視眈々と狙っていたんですよほんとストーカーかよって思ってたんです、そしてついに襲い掛かろうとした時に無意識に身体が動いちゃって……、多分私が動く前からどちらかは警戒していたと思いますがそのままだと恩返しが出来なくなるので勝手に倒してしまいましたごめんなさい。けれどこれをきっかけに私も二人とお近づきになりたいと思っていたんです、不躾がましいことは重々承知ですがこれから貴方達と友情を育んでいきたいと思っています、宜しくお願い致します」

 勢いを付けすぎて振り上げた武器が私の身体にも刺さったけど抜いたから痛くない。生暖かい液体が零れ出ている、手にべったり付いた赤黒い液体をごしごしと制服で拭いて呆然と腰を抜かしている二人の前に踏み出し言葉を述べれば、二人の表情はやはり未だに呆然としている。ああ可愛いなあ、平腹くんはいつも笑顔だし、田噛くんは基本無表情だからこの表情を見るのは凄く新鮮だ。
それにしても助けてもらった頃の私と全く同じだ、腰を抜かしているし、表情も呆然としているし、この時に見えた大きな背中に心臓を持ってかれたんだよ、確か日記に書いてあったはず、うん書いてあった! そこから二人の事を調べ上げたんだし、そうだ、もう二人についての日記もページ数が少なくなってきちゃったんだっけ、帰りに買っておこう。一冊一冊買ってたら面倒だし今度ダンボールに詰めて買っちゃおうかな。っと今は予定を組んでいる場合じゃない、安心させるべく笑顔を向けて座り込む。すると平腹くんが私を一瞥した後に顔を輝かせて一気に顔の距離を近づけてきた。ぐあああ近い! 遠くから見ているだけで胸の高鳴り止らないこんなに近付かれたら私死んじゃう。

「オマエ、すっげーな!」
「えへへ有難う御座います。ずっと二人の傍にいましたし」
「てえと、オマエが今日一緒に組む予定だったやつ?」
「いえそれは別の人だと思いますよー。私は偶然、たまたまこの廃校を探索していたので」
「……お前、誰だ?」
「あ、申し送れました私名前と言います。実はずっと前に貴方方に助けられたことがあるんですよ」
「……覚えてねぇな」
「んー、オレも! けど助けてくれてあんがとな!」
「いえ、ただ恩返しがしたいと私欲だけで貴方達を知ったので気になさらないでください。それではこれで失礼します!」

 踵を返して走り出せば後ろから何が聞こえるが今はそれどころじゃない。おしゃべりできたよあの二人と! それだけで胸がいっぱいでもう呼吸すら忘れそう、どうせなら握手しておけばよかった! ああでもそんなことしたらリアルでその手一生洗わない宣言しちゃいそうだからしなくて良かったかも。
どばどば流れる血を垂れ流しにしながら急いで屋敷へ戻ろう、そして今日のことを日記に書こう、否、書かねばならない。

あ、邪魔だから倒しちゃったあの獄卒さん大丈夫かな、まあ良いか。だって平腹くんと田噛くんに妙に偉そうな態度取ってたしあんなの居ない方が良いよね。



「昨日名前って変な女がいたんだよー!」
「血だばだば流してるのに元気だったな」
「へえ、ちょっと会ってみたいなぁ」
「ただならぬフンイキだったぜ!」

 あの二人が、私のことについて話してる! どこから、とは具体的には言わないが私は誰にも見つからない位置に隠れて間接的に二人を監視、違う、いつも遠くから見つめている。あの二人にいつ亡者や怪異が襲い掛かるか分からないから私がしっかり彼等を護っていかなければ。そろそろお昼の時間だから田噛くんと平腹くんは偶然廊下で再会してそのまま食堂へ向かった、そして食堂には同僚が居たらしくて他愛ない話をしている間に急に平腹くんが私の話をし出したのだ、これにはちょっと声を上げそうになった。
どうしよう、ここは敢えて顔を出してみようかな、けれども、ああああああどうしようどうしよう!

「また会えるならあいてーな」
「はいはいそうだな」
「田噛てきとー……」

 会いたい!? 会いたいだって! その言葉を録音しておけばよかった! 今度からは録音機械とか用意しておこうああああとても惜しい事をしてしまった!
田噛くんも気だるそうだけど建前は肯定してくれたし! 嬉しい、すっごく嬉しい! これはもう二人の前に出るしかない! 今出なきゃ絶対後悔するし!
私は深呼吸をして、一気に食堂にいる彼等の方に走り出した。

「こ、こんにちは!」
「ふぉ? 名前じゃーん!」
「……」
「君が、平腹と田噛を助けた子?」
「助けだなんてそんな! 実は私自身昔彼等に助けてもらったのでその恩返しをしたかっただけです。偶然あの場に居合わせたので……」
「そうだったんだ、おれ、木舌って言うんだ宜しくね」
「はい」

 正直、平腹くんと田噛くん以外の鬼なんてどうでも良い。私の生きがいと役目は、彼等をずっと見守ってなにかあったらすぐに助けること。そしてあわよくば二人と仲良くなれたらな、なんて私欲の三つで成り立っているのだ。他の友好関係なんかはどうでも良い、私には二人がいれば満たされるしそれだけで大大大満足なのだ。本当はでしゃばるのは良くないと思ったけれどもどうせならお話したいし、思わず出てきてしまったが平腹くんが快く歓迎してくれた。

「平腹うるせぇ」
「なんだよ田噛ー! お前さっき出血とか心配してたじゃん」
「殴るぞ」
「二人共仲良いんだねー」
「んなわけねぇだろ」
「まあ、でも仲が良かろうが悪かろうが、私は二人共大好きですし愛していますからね!」

 きゃー、なんて言いながら両手で顔を覆う。恥ずかしい、勢い余って告白してしまった! 案の定二人共、ともう一人凄くぽかんとしているし! まあ確かに私自身を第三者から見たらあまり親しくもない女がいきなり告白してくるだなんて不気味だし驚きだよね、うわあやらかしたかも。
まあでも、良いや、どうせ仲良くなりたいなんて目標はオマケにしか過ぎないし、私はずっとこの二人を愛でるのに集中するぞ。

「お前、変な奴だな」
「よく言われますよー、ああそうだ田噛くん、昨日遅くまでギターやってたけど寝不足とか大丈夫?」
「はあ?」
「オレも名前みたいな奴好きだぜ!」
「わああ有難う平腹くん! 平腹くんも、昨日ゲームやってて勢い余って壊しちゃったけどちゃんと粗大ゴミに出してね」
「ん?」
「……なんだか名前さん、詳しいね?」
「そうでしょうか? 大好きなものなら、なんでも知りたくなりませんか?」

 二人を見る時間は上手い具合に分けているから、最初から最後まで見ることは出来ないけれどもまあ他の人よりかは二人の私生活は知っていると思う。いや誰よりも二人の事を知っているのは私だ。
なぜだか軽く引いている田噛くんと、理解出来ていない平腹くんに目を運んだ後に困ったように笑っている木舌さんに笑いかけた。
そう、大好きなものは何でも知りたくなるんだ、だからずっと惚れた日から彼等の事を細かに纏めたノートを綴っているし。

「名前、オレについて詳しいな!」
「誰よりも知っていると思うよ!」
「へえエスパーか!?」
「エスパーというか、愛の形でしょうかね?」
「……平腹、ソイツから離れろ」
「え? なんで?」
「……」

 警戒したような表情で平腹くんの肩を思い切り後ろへ引く田噛くん、そのままだと平腹くんと尻餅ついちゃうよ。
けれども田噛くんに睨まれちゃった、やっぱり田噛くんはこういう表情が似合っているような気がする。
まあ別に、嫌われちゃったら嫌だけどそれはそれで仕方ないかも、確かにちょっと異質かもしれないし。けれどもあくまで表向きの笑顔を彼等に向けて、何事もなかったかのように二人に少しだけ近付いてまたまた取って置きの笑顔を浮かべた。木舌さんも、どこか私を見る目が少しだけ変かも、二人以外の人にどう思われようが気にしないけどね。

「つまるところ、私は貴方達が大好きなんです! ……逃げても、どこまでも追いかけますよ」
「……お前、頭おかしいんじゃねぇの?」
「おかしくさせたのは、貴方達ですから」

 とろんと恍惚した笑顔を向ければ、平腹くんは「面白い奴だなー名前は!」なんていってくれたけど、田噛くんの表情は和らぐことがなかった。それすらもぞくぞくしちゃう! やっぱり私、この二人が大好きだ。どこへ行っても、大好きな貴方達がいる場所なら喜んで駆け付けるよ。

「田噛くんも、平腹くんも、ずうっと大好きだからね」






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ふぇいと様リクエスト、ヤンデレ夢主が穴掘りコンビを追いかけるでした。
今回の夢主の属性はずばり執着型、遠くから監視したり少しだけ近付いて仲良くなろうとしたり、とか。
ヤンデレの子はたいてい長文を言わせたくなる傾向があります。最後に夢主がちょっと変な部分がバレちゃいましたがそんなものには怯まない夢主と理解できてない平腹。空気気味な木舌さん。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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