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私の兄事情

私には田噛という兄貴がいる。見た目は私と同じ橙色の瞳と三白眼、だるいという感情が常にオーラから出ているような脱力しきっている身体、身長百七十六センチ体重は知らない。いつもつるんでいる仲間達の中では一番小さいけれどもそれを言うと平腹という同僚に八つ当たりするから最近は言わないでいる。口癖はだるい、眠い、めんどくさい、お前本当に獄卒かと疑いたくなるくらいで面倒な事をいかに避けるかに頭を使う勿体無い頭脳派、口を開けば大抵悪態、恐ろしいくらい口が悪い。まあそれは妹の私も同じだけれども、私は相手の感情をちゃんと汲み取って発言するけどね。そんな兄貴を持つ私の悩みは、兄貴が私に対する扱いだ。

「名前、どこに行く」
「仕事。夕方まで帰ってこないから。あと武器貸して」
「一人だと危ないだろ、俺も行く」
「来なくて良いよ、一緒に組んでる人いるし」
「……男か」
「違うし」

 男なんて言ったら多分兄貴ソイツを殴って再生不能にさせて任務に付いて行くんだろう。そう、悩みというのは、兄はいわゆるシスコンという部類に値する。屋敷は男女別々に分かれているにも関わらず、一人だと寂しいだろうというニュアンスを含め部屋に付いていこうとしたし連行しようとしたり、任務で怪我したもんなら五月蝿いくらいどこでぶつけた、誰にやられた、等とぐちぐちぐちぐち質問攻め。それが仲間にやられたと聞いたならば疾風の如く相手に襲い掛かる。病的すぎて軽く引く。
 佐疫みたいに、温和でいかにも優しい青年のような人がシスコンならばまあ分からなくも無いがいかにもそういうのに掠りもしないような風貌をしている兄貴がシスコンというのは妹の私でも違和感しかない。周りには「お母さんみたいだね」と言われるが。ああ、ある意味お母さんなのかもしれないな、腕を組んでため息を零せば兄貴は「具合が悪いのか」と焦ったような表情をして額に手を当ててくる、根本的に私と兄貴は考えがズレているかもしれない。

「とにかく、まだ時間あるけどそろそろ行くわ。お兄ちゃんは付いて来ないでね」
「送っていく」
「絶対付いてくる気でしょ」
「……」
「おい何か言えよ」

 この兄貴絶対付いていこうとしているな……! 顔は気だるげそうに見えるが瞳の奥底の気持ちくらい読み取れるぞ私は。
わざわざ男性屋敷に来たのが間違いだったかも知れない、いやけど何も言わずに任務へ行けば兄貴から呼び出しを喰らって事細かに説明しなきゃいけないというめんどくさい事態も考えられる……そろそろ本気でコイツの妹離れを考えさせなきゃらないような気がして来た。私は好きな人とか彼氏を連れて来たら兄貴死ぬんじゃないかな、死なないけれども。
真っ先に相手を抹殺しそうで恐い、私自身まだ恋愛に興味がないからそこらへんはまだまだ考えなくてもいいかも知れないけど。

「名前はまだ子どもだろ、面倒ごとは全部俺に任せてれば良いんだよ」
「んなわけないでしょ、私は大抵の仕事は一人でこなせます。お兄ちゃん心配しすぎ」
「妹だから心配するのは当たり前だろう」
「度が行き過ぎてるっつー言葉を送っておくわ」
「名前からの贈り物か……悪くないな」
「(めんどくせぇ)」

 思わず顔を歪みそうになったがそんなことをしたらこの兄貴が何を仕出かすか分からない。めんどくさいから仕事を押し付けようかな、と思ったがこの兄貴に何かを頼ると調子に乗って顔をゆるゆる緩めるだろう、その顔はまあ普通に微笑んでいるなら妹として許せるが私が兄貴を頼った、というレッテルは貼りたくないから絶対言わない。兄貴に頼るなら頭を下げて堅物谷裂とかに怒られつつも頼った方が千倍マシだ、兄貴はシスコンを失くせば普通に良い人なんだけどなあ、どこをどう間違えてしまったのか。
 いや、いっそ兄貴を上手い具合に掌で転がしていく、というのもありかもしれないけれどそんな事したら真面目で人並みの子というイメージがついた私の名誉? に関わる。

「なに難しそうな顔してんだ、やっぱり俺がいないと、」
「違うから大丈夫」
「……昔から照れ屋だな」
「会話のキャッチボールしようよ」

 私の時限定で妙にポジティブシンキングな兄貴を横目に見つつ、そろそろ部屋から出るか、このままだと任務に行かせてくれなさそうだし。というか兄貴と任務と一緒に組む相手が鉢合わせたら一番めんどくさい。
 なぜって、そりゃ相手は男だからだ、この兄貴にはたまに嘘を付いておかないと色々問題を起こしてしまう。ごめんね兄貴、これでも罪悪感はあるんだよ。上手い具合に私も行動するから嘘がバレることはあまり無い、が、兄貴はやはり兄貴で私よりも頭が数倍良いのでたまにバレる、それで怒られる、相手が。まあ謝れば「お前が関わってるとなー」なんて言われる、兄貴のシスコンは屋敷内でも広がっているらしい。これは妹の私として身は死活問題だったけど、正直弁解など面倒だからもう諦めた。

「じゃあ部屋で準備するから、あと武器」
「……本当に一人で大丈夫なのか?」
「一人じゃないって」

 兄貴の脳内は私一人しか映ってないのか、このままだと会話が拗れそうなので部屋の隅に置いてある兄貴の武器、ツルハシを手にとって「借りるね」とだけ言い放ち部屋を出よう、とした瞬間に肩をがっちり掴まれた。

「……お兄ちゃん?」
「駄目だ、名前がもし怪我をしたら……、お前は部屋で寝てろ、任務は俺が行く」
「あに、お兄ちゃんが寝てなよ。疲れてるでしょ?」
「俺よりもお前が心配だ」

 思わず兄貴、と呼びそうになったがすぐに呼び方をお兄ちゃんに言い直す。正直呼び方なんてどうでも良いがお兄ちゃんと呼んだ方が女の子らしいという私の勝手なイメージがあるからお兄ちゃん呼びしてる。兄貴もなんだか嬉しそうだし、いやなんて呼んでも嬉しそうだから良いか。

「本当にお兄ちゃん心配しすぎだって、大丈夫」
「……」
「任務終わったらこっちに戻るから、ね?」

 苦虫を潰したかのような表情で私の肩を掴む兄貴の手の上に自分の手を重ねて諭すように言えば、納得したのか兄貴は気乗りしないだろうけど頷いた。シスコンもここまで来ると扱いが大変だ、いっそのこと私がブラコンだったら周りから「バカップルみたいだ」とからかわれるだろう、……うーん、それはそれで考え付かない。私がブラコンという時点で鳥肌もんだ。というか私そんなキャラじゃないし、兄貴のことは好きだけどずっと見てないと、一日会話してないと落ち着かないレベルじゃないし。

「怪我をしたらすぐ逃げろよ」
「はいはい、それじゃ、」
「あー! いたいた 名前!」
「げ」
「……は?」

 よっしゃ言い包め成功! と内心でガッツポーズをしてドアノブを捻ろうとした瞬間に凄まじい勢いで扉が開かれて中から今日、一緒に組む任務相手が出てきた。予想外の登場に思わず本音を洩らしたと同時に後ろからピシリと兄貴の身体が石のように硬直したような音が、聞こえたような気がした。
呆然としている私達兄妹がおかしいのか、相手は「ふぉ? どうした?」と笑顔を浮かべながら小首を傾げている。どうした、じゃない、どうするんだこの後のことを。お前の言葉を借りれば「詰んだな!」状態だぞ。

「平、腹」
「おう! 早めに行って終わらせよーぜ!」
「……名前、どういうことだ」
「えっとー……こういう感じ?」
「平腹と行くのか」
「わあさすがお兄ちゃん」

 おそるおそる後ろを振り返れば、三白眼の瞳が更に釣り上がっていて眉間にこれでもかというほど皺が刻まれている、声色から、なんとなく感じるオーラから見たら私の兄貴、田噛くんはかなり御立腹のようだ。私が嘘を付いたからではなく、相手が男であり、私にも過剰なスキンシップをしてくる平腹からだからだろう。あまり刺激しないように私自身は声色を明るくしてみるが敵を殲滅、という言葉が脳内を支配している兄貴には届いていなかった。

「平腹、死にたくなければ逃げた方が良いと思う」
「ほ? なんで?」
「お兄ちゃんが今シスコン拗らせて平腹に殺意向けてる」
「田噛のシスコンはいつもじゃ、いってえ!?」
「ひ!?」
「……平腹、明日の月は綺麗だろうな」

 いつの間にか持っていたツルハシが兄貴の手に渡って、平腹の頭に突き刺さった。刺さったぐらいだから死ぬ事は無いが完全にイっちゃっている兄貴はもう誰にも止められないだろう、殺る気満々で鬼人の如くゆらゆらと蠢くその姿はまさに鬼という名に相応しい姿だった。こいつは本格的にヤバイと直感した。すぐさま踵を返して、走り出す。

「平腹逃げろおおおおおおおおおおおお!」
「鬼ごっこか! 楽しそうだな!」
「お前馬鹿か!? あれのどこが鬼ごっこだ! いや、まさにお兄ちゃん鬼になってるけど!」
「名前には指一本触れさせねぇ……!」

 ツルハシを抜こうとしている平腹の襟首を掴んで私は一目散に部屋から出て行った。火事場の馬鹿力とはまさにこういうことか、今なら平腹がとても軽く感じる。チラリと後ろを振り向けば影が鬼の姿をしている兄貴、が追いかけている。これ何気私も巻き込まれてね? いや、まあ元はと言えば私のせいなんだけれども。
というかどうしよう、ああなったらもう平腹を贄(にえ)に出したいところだけれども、それはかなり申し訳ない。私が招いた事態、いやでも相手が男だと言った時点でこうなる事は目に見えていた、……屋敷内を走り回りながら必死に頭を回転させる。
あ、今壁が崩壊する音聞こえた。後ろ恐くて振り向けない。

「名前、なあ名前!」
「なに!? ていうか平腹走ってよ!」
「そこ行き止まり」
「あ」

 思えば私に危機は無いし、平腹自身もそこまで命を危険を感じていないのではないのだろうか。曲がり角が行き止まりで思わず足を止めれば、地に響くような、聞き慣れた声がより鮮明に聞こえた。

「……名前、お前には俺だけいれば良い」
「そんなヤンデレいらないよお兄ちゃん!」
「んー? 田噛相変わらず名前好きだな!」
「ああ、お前みたいな輩がうじゃうじゃいるからな」
「ストップ、ストッ、」
「……随分派手に暴れたな、お前たち」

 兄貴よりも低い、いっそ地を揺らすかのような声が私達の上から降ってきて、兄貴が音も無くドサリと倒れた。え? と思いながら平腹と一緒に上を見れば、そこには、私達の上司の、

「肋角さん!」
「(詰んだ)」
「どういうことか説明してもらおうか」

 この後滅茶苦茶怒られました。とりあえず兄貴には早く妹離れをして欲しいと今日まで強く思ったことはありません。






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いろは様リクエスト、シスコン田噛でした。
田噛の妹は、どちらかというと男勝りではきはきした子のイメージが強いです。しかし田噛、これ血が繋がっていなかったら確実にヤンデレ予備軍ですね。平腹とか木舌には警戒してそうです。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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